小脳失調症状の基礎知識を紹介。測定障害、変換運動障害、企図振戦といった症状や、危険な小脳失調症状の鑑別方法、観察のポイントなど、看護師が知っておきたい要点をわかりやすく解説します。

観察のポイント

小脳失調症状
●指鼻指試験、膝踵試験
●座位・立位・歩行の観察(つぎ足歩行)
●手回内・回外試験
●会話の流暢さ
↓気づきたいポイント
●突然に右手で物をつかもうとすると、大きく揺れてつかみにくそう
●麻痺がないはずなのに、ふらつきがある
●言葉の抑揚が強くて、いつも怒鳴っているように聞こえる
●立ち上がるとき、前後・左右にふらつく

小脳失調の症状・徴候は?

 小脳には、体を動かすときにスムーズに・しなやかに動かすはたらきがあります。そのため、小脳が障害されると運動時のぎこちなさなどが出てきます。
 小脳失調では、具体的には下記の障害がみられます。運動麻痺はないけれど動きがなんとなくぎこちない、会話が聞き取りにくい、立ち上がり時に前後・左右にふらついたりすることで気づくことがあります。
 小脳の障害が軽度の場合に、“なんとなくおかしい……”と気づくことはありますが、ふらつきやめまいから他の疾患に注意が向いてしまうことがあるため、症状をくわしく観察することが大切です。

小脳の症状

①測定障害

測定障害のイラスト

●コップをつかむときに、目標としているコップまでの距離を適切に調整できない

②運動の分解

運動の分解のイラスト

●腕を伸ばすとき、複数の筋肉が複雑に協調してスムーズに動かせず、バラバラになってしまう

③変換運動障害

変換運動障害のイラスト

●手掌と手背を交互に回内・回外するときに、ぎこちなさが出る

④企図振戦

企図振戦のイラスト

●何か物をつかもうとしたときなどに、特に手が振戦する

⑤体感失調(酩酊様歩行)

●立位時など、バランスを保持して立とうとしてもふらつき、酔っ払ったような歩行になる

⑥小脳性構音障害

●会話の強弱が、単調になったり、過剰になったりする

 小脳性の構音障害では、会話の抑揚をつけることが難しく、患者がそのように意図していなくても、ときどき家族や新人看護師から「いつも怒鳴っている」と捉えられてしまうことがあります。家族や周りのスタッフにも、“怒鳴っているわけではない”ことを理解してもらうことが必要です。

小脳失調の事例

●突然の激しいめまい・嘔吐があった
●左側の手足の動きがぎこちなく、しゃべり方がおかしい

事例が起こったのはなぜ?

■「小脳失調」による小脳失調症状

「小脳失調」による小脳失調症状のCT画像

①指鼻指試験、膝踵試験:左側の動きにぎこちなさがみられる
②座位・立位・歩行の観察(つぎ足歩行):体幹が左側に揺れる
③手回内・回外試験:左側の動きにぎこちなさがみられる
④会話の流暢さ:話し方が途切れ途切れになる
急激に症状が出ていることから、小脳を取り巻く血管の障害(脳梗塞、脳出血)が考えられた
●CT画像により小脳出血がわかった。左側の小脳出血のため、同側の“左側”の運動失調につながった

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●頭蓋内圧亢進で注意すべき嘔吐・めまい
小脳失調を伴い起こる場合がある嘔吐やめまいについて解説しています。

小脳失調のメカニズムと鑑別のポイント

1)小脳失調のメカニズム

 小脳半球図1-A)は四肢の協調運動に対してはたらくため、障害により測定障害変換運動障害構音障害などが起きます。
 また小脳虫部図1-B)は体幹の起き上がりや歩行動作に対してはたらくため、平衡障害体幹失調に関連します。

小脳(縦断面)とはたらき
小脳(縦断面)とはたらきの図

2)危険な小脳失調の鑑別

 鑑別のポイントとしては、“急激に症状が出現したのか”“徐々に症状が出現したのか”など発症の形式も重要になってきます(表21。このとき、症状だけでは判断が難しいため、画像所見などから障害されている部位がどの程度あるのか判断していきます。

表2 運動失調の発症形式と原因

突発発症型
何時何分かきっちりと特定できる
〈原因〉血管障害性(脳伷塞、脳出血など)→危険

慢性発症型
半年以上にわたってゆっくり進行している
〈原因〉遺伝性(フリードライヒ運動失調症など)

*【フリードライヒ運動失調症】=心臓と神経系が損傷されることで、歩行障害や感覚麻痺を引き起こす遺伝性疾患。

急性発症型
1週間以内に症状の完成を認めている
〈原因〉
感染性(髄膜炎、脳炎など)→危険
免疫性(神経ベーチェット病、重症筋無力症など)
中毒性(アルコールなど)
代謝性(低血糖、代謝性疾患、ビタミン不足など)

突発再発症型
繰り返し起こり、何時何分かきっちりと特定できる
〈原因〉機能性(てんかん、片頭痛など)

亜急性発症型
数週~数か月にわたって発症・経過する
〈原因〉
占拠性(脳腫瘍など)→危険
感染性(髄膜炎、脳炎など)→危険
免疫性(神経ベーチェット病、重症筋無力症など)

急性再発型
繰り返し起こり、1週間以内に症状の完成を認めている
〈原因〉脱髄性(多発性硬化症など)

(文献1より引用)

 運動麻痺などは錐体交叉で対側半身の障害となりますが、小脳半球の障害の場合、病変と同じ側に症状が出現します。つまり、右小脳半球の出血の場合は右側に小脳失調症状が出現します。小脳の中央に位置する小脳虫部が障害された場合は体幹失調が生じます。

 注意したいのが、小脳の前方には脳幹が位置しており、脳神経核が存在していることです。つまり小脳に障害が起こると、動きがスムーズにできず、嚥下機能にも影響を及ぼすだけでなく、嚥下に関係する下位脳神経核に障害が起きます。また脳出血のように急激な症状の場合、脳幹にまで影響を及ぼしたりします。

 小脳は大脳と小脳との間に小脳テントがあり、後方を頭蓋骨に囲まれています。また、前方には脳幹が位置します。そのため小脳に脳梗塞や脳出血などが起きると脳ヘルニアが生じたり、髄液の通り道である第 4脳室を圧迫し水頭症を起こしたりします。異常を発見したら、早期対応・早期治療が必要です。

小脳失調の観察ポイント

1)小脳症状の観察の方法

 測定障害や振戦などで、上下肢それぞれ左右の動きを見るための試験に指鼻指試験膝踵試験があります。
 特に指鼻指試験では、「患者の鼻」と「検者(看護師)の指」との間が近いと振戦などの動きがわかりにくくなるため、検者(看護師)の指の位置は、患者の腕が伸びきる距離にすると評価しやすくなります。

①指鼻指試験

方法
●患者の人差し指を、「患者自身の鼻」と、「検者(看護師)の指先」に交互に触れてもらう
評価
●検者(看護師)の指は、患者の届く位置で左右、さまざまな場所に動かし評価する
●小脳失調があれば、患者の指が振戦し、ぎこちない動きとなる

指鼻指試験のイラスト

②膝踵試験

方法
●患者の踵を反対側の膝につけ、脛に沿って下降してもらう
評価
●スムーズに踵を沿わせることができるかどうかで評価する
●小脳失調があれば、患者の下肢が脛に沿ってスムーズに動かせず、ぎこちない動きになる

膝踵試験のイラスト

③運動失調(座位・立位・歩行の観察)

 座位時、立位時、歩行の様子をみて判断します。小脳失調の際は、特に座位時や立位時に、体幹の動揺や障害側に倒れるなどがあります(下記のつぎ足歩行参照)。

方法
●“つぎ足”で一直線をまっすぐに歩けるかチェックする
評価
●失調によりまっすぐに歩けない

運動失調試験のイラスト

④変換運動障害(手回内・回外試験)

 変換運動障害をみるときに、手回内・回外試験を行います。両手の手掌と手背を回内・回外させることで、動きのぎこちなさがないか判断していきます。

方法
●回内:腕を水平に保ちながら、手掌を“下に”向けてもらう
●回外:腕を水平に保ちながら、手掌を“上に”向けてもらう
評価
●小脳失調があれば、障害側はぎこちない動きとなる

手回内・回外試験

⑤小脳性構音障害(会話の流暢さ)

 会話の流暢さが欠け抑揚がなく単調になったり、逆に抑揚が強く爆発的になったり、途切れ途切れの会話になります。

2)観察時の注意点

 運動障害(運動麻痺)感覚障害にも言えますが、観察項目だけで、どこにどのような障害があるのか判断するのは困難です。また、嘔吐やめまいが強い場合や意識障害の場合、小脳失調症状を判断するのが難しい場合があります。
 画像所見などの検査データを用いながら判断していくことが大切です。

小脳失調の対応ポイント

1)小脳失調の治療

 小脳失調の治療は、運動麻痺や感覚障害と同じように、小脳出血などの根本的な原因疾患の治療となります。
 特に小脳病変の出血や梗塞の急性期の場合、麻痺を伴わないことから失調症状は見つけられにくく、めまいや嘔気・嘔吐症状に対する援助が必要になってきます。また、麻痺を伴わないことから小脳失調が自覚症状として捉えられにくく、1人で動こうとして転倒するなどがあることから、安全面への配慮が必要です。

2)小脳失調への援助

 小脳失調症状の場合、失調症状により物をつかみ損ねたり、体幹失調によるふらつきを起こしたりすることから、転倒・転落のリスクが高くなります。
 安全面に十分配慮して、生活環境を整えたり、後方に倒れたときなどに手を差し出すことができるように看護師の立ち位置を工夫したりするなどの配慮が必要です。

 小脳失調症状は、リハビリテーションなどの訓練により慣れてくるため、根気強くリハビリテーションを行うための支援を行い、病棟内でもできることが増やせるよう見守る姿勢も大切です。

(第13回)

1.松本直人:ナースができるベッドサイド・アセスメントと異常への対応 ④運動系─失調.木村哲也 編,脳・神経の異常“とっさの”見かたと対応,エキスパートナース2015;31(3):43.

1.西澤正豊 監修:脊髄小脳変性症(SCD).医療情報科学研究所 編,病気がみえるvol.7 脳・神経,メディックメディア,東京,2011:292-299.
2.田崎義昭,斎藤佳雄:小脳機能の診かた.ベッドサイドの神経の診かた 改訂18版,南山堂,東京,2016.
3.窪田惺 監修,塗って覚えて理解する! 脳の神経・血管解剖,メディカ出版, 大阪,2008:113-118.
4.馬場元毅:小脳の障害.JJNブックス 絵でみる脳と神経 しくみと障害のメカニズム第4版,医学書院,東京,2017.

※この記事は『エキスパートナース』2014年10月号特別付録を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。