日本集中治療医学会によって策定された『重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023』。作成の経緯や概要など、看護師が知っておきたいポイントを紹介します。
『重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023』作成の経緯
重症患者に早期からリハビリテーションを行う有用性は、2000年代後半より謳われるようになってきました1,2。それまでは、重症患者は“眠らせ”て“絶対安静”が主流だったのですが、さまざまな研究で鎮静の弊害が示されるようになり、患者さんは覚醒して過ごすことが多くなってきました3,4。その結果、離床も可能ではないか、といわれるようになってきたのです。
また、離床だけがリハビリテーションではありません。electorical muscle stimulation(EMS、筋電気刺激療法)やエルゴメータの使用もリハビリテーションの1つです。さらに、多くの重症患者には嚥下障害が生じていることが明らかになっています5。このような患者さんには、嚥下に関するリハビリテーションも必要になります。そして、「集中治療室(ICU)退室後に高い強度のリハビリテーションを行う必要があるのか?」ということが重要な課題です。
このように、重症患者にとって、リハビリテーションは身近なものになり、多くの施設で積極的に行われるようになってきました。しかし、これまでリハビリテーションに関与するスタッフや看護師がどのようなリハビリテーションを行うべきか悩んだときに指針となりうるものは、エキスパート・オピニオン(識者の見解)しかありませんでした。つまり、エビデンスに基づいた意思決定支援のツールがなかったといえます。
そこで、『重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)』が、日本集中治療医学会によって策定されました。
『重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023』の目的
『重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023(J-ReCIP 2023)』(以下、本診療ガイドライン)は、ICUでの治療を受ける患者さんを対象に、リハビリテーションを通じた患者さんの早期回復と予後改善をめざしています。システマティックレビュー(SR)*1とGRADEアプローチ*2を採用し、エビデンスに基づく推奨を提示することで、標準化されたケアの提供を促進することを目的としています。
*1【システマティックレビュー】systematic review。ある課題に対し、系統的(systematic)かつ明示的な方法を用いて、先行研究・論文を複数の専門家でリサーチし、それらのバイアス(データの偏り等)を吟味したうえで分析し、治療方針を提示する形式。
*2【GRADEアプローチ】Grading of Recommendations, Assessment, Development and Evaluation approach。ガイドライン開発に関する国際的な審議会であるGRADE working groupによって整備され
た、エビデンスの質(または確実性)、推奨の強さを評定するための、合理的で透明性のある共通のアプローチ。また、このアプローチにもとづくエビデンスの確実性や推奨度の評価方法がGRADEシステムで、患者の価値観や好みを考慮して推奨を作成することを明確にしているなどの特徴がある。
本診療ガイドラインでは、ICUの中でのリハビリテーションのみならず、ICU退室後のリハビリテーションにも焦点を当てているのがポイントです。本診療ガイドラインの策定には医師、看護師、理学療法士、作業療法士、薬剤師などさまざまな専門職が参画しました。
本診療ガイドラインは、ICU患者へのリハビリテーションを支える基盤として、表1の8つの重要な臨床
領域を設定しています。これらの領域から臨床疑問(clinical question:CQ)が選出されました6。一般病棟の方はぜひ、表1「ICU退室後のリハビリテーション」を一読いただければと思います。
表1 ICU患者のリハビリテーションの基盤となる8つの臨床領域
1.ICUでの運動療法(呼吸理学療法なども含む)
●呼吸理学療法を含む運動療法を実施する際の方法や効果について検討する領域。リハビリテーションの開始基準や方法、運動の具体的な内容が議論されている2.神経筋電気刺激および床上エルゴメータ
●神経筋電気刺激(NMES)や床上でのエルゴメータを使用したリハビリテーションの有効性や適応を評価する領域
3.嚥下機能に関するリハビリテーション
●ICU患者に特有の嚥下障害を対象に、その評価方法や治療プロトコルを検討する領域。嚥下機能の回復に向けたトレーニングや検査の導入が含まれる
4.離床に関する基準
●離床(ベッドから起き上がること)を開始する基準と中止する基準について定め、患者の安全性を確保しながら早期の移動を促進するための領域
5.栄養療法とリハビリテーション
●リハビリテーションの効果を最大化するために適切なエネルギーおよび栄養素の摂取を検討する領域。エネルギーやタンパク質の目標量が議論されている
6.小児のリハビリテーション
●小児ICU患者を対象にしたリハビリテーションの特有の課題や治療方法を取り扱う領域。年齢に応じた方法論や適応が含まれる
7.ICU退室後のリハビリテーション
●ICU退室後の患者が一般病棟や地域医療施設でリハビリテーションを継続するための方法論を検討する領域。患者の回復を促進し、再入院を防ぐことを目的としている
8.家族面会・家族のリハビリテーション参加
●家族の面会やリハビリテーションへの参加が患者の回復や精神的健康に与える影響を検討する領域。家族の積極的な関与を推奨する内容が含まれる(文献6を参考に著者作成)
こちらもチェック
●ICU-AW予防のための早期リハビリテーション
PICSのうち、運動機能障害の代表であるICU-AWを予防するための早期リハビリテーションについて紹介しています。
CQの抽出元と推奨の評価基準
表1の8領域から14のCQが抽出され、それぞれについてGRADEシステムを用いた推奨が示されてい
ます。例えば、「ICUにおける運動療法の導入」「神経筋電気刺激の使用」「嚥下機能リハビリテーションの実施」など、実際の治療現場で重要とされる具体的な疑問に対する推奨が含まれています。
CQごとの推奨は、「推奨」「弱い推奨」「非推奨」「弱い非推奨」の4カテゴリに分類され、エビデンスの確実性や介入の効果、患者さんや家族の価値観、実行可能性を考慮して評価されています。
表2に、本診療ガイドラインにおけるCQと推奨を紹介します6。
表2 『重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023』に掲載されているCQとその推奨
CQ番号1:重症患者にリハビリテーションのプロトコルを導入するか?
【推奨】重症患者にリハビリテーションのプロトコルを導入することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号2:重症患者に対して1日に複数回のリハビリテーションを行うか?
【推奨】重症患者に対して1日に複数回のリハビリテーションを行うことを弱く推奨す(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号3:重症患者に対して神経筋電気刺激または/および床上エルゴメータを行うか?
【推奨】重症患者に対して、神経筋電気刺激を行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。床上エルゴメータを行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。神経筋電気刺激および床上エルゴメータを行うことを弱く推奨する(GRADE 2B:エビデンスの確実性=「中」)。CQ番号4:ICUの重症患者における嚥下障害の頻度とスクリーニング方法は?
【推奨】ICUの重症患者における嚥下障害の正確な頻度は不明である。国ごとに事情や食文化が異なるため、嚥下障害のスクリーニングにはさまざまな方法が考案されており、国際的に統一されていない。自発的に嚥下できても不顕性誤嚥の場合もあるため、複数のスクリーニング方法を組み合わせて嚥下障害の有無を判断することがある。CQ番号5:重症患者に対して、嚥下内視鏡検査に基づいたマネジメントを行うか?
【推奨】ICU入院中の重症患者に対して、嚥下内視鏡検査に基づいたマネジメントを行わないことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号6:重症患者に対して、嚥下機能にかかわるリハビリテーション治療を行うか?
【推奨】重症患者に対して、嚥下機能にかかわるリハビリテーション治療を行うことを弱く推奨する(GRADE 2C:エビデンスの確実性=「低」)CQ番号7:重症患者の離床と運動療法の開始基準は何か?
【推奨】重症患者では、生命の危機から脱し、病態が改善傾向または安定化したことが確認されたのちに離床と運動療法の開始が検討されるが、安全かつ効果的な離床と運動療法の開始基準・タイミングに関する統一された見解は得られていない。「重症患者の離床と運動療法の開始基準案」(引用文献6のp.S936「Table 7」)を参考にし、チームで総合的に判断する。
CQ番号8:重症患者の離床と運動療法の中止基準は何か?
【推奨】重症患者の離床と運動療法では、実施中に病態が不安定になる可能性があるため、その中止基準を設定することが重要である。しかし、これまでに重症患者の離床と運動療法の中止基準に関する統一された見解は得られていない。「重症患者の離床と運動療法の中止基準案」(引用文献6のp.S941「Table 8」)を、施設体制または疾患や生理的状態に合わせて使用してもよい。
CQ番号9:重症患者の治療4~10日目に 20kcal/kg/day以上または消費エネルギー量の70%以上のエネルギー量投与を行うか?
【推奨】重症患者に対して、4~10日目に20kcal/kg/day以上または消費エネルギー量の70%以上のエネルギー投与を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号10:重症患者の治療4~10日目に1.0g/kg/day以上のタンパク質量投与を行うか?
【推奨】重症患者に対して、4~10日目に1.0g/kg/day以上のタンパク質量投与を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性「非常に低」)。CQ番号11:小児ICU患者に早期運動リハビリテーションのプロトコルを導入するか?
【推奨】小児ICU患者に対して、早期運動リハビリテーションのプロトコルを導入することを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号12:小児急性期呼吸管理患者に呼吸理学療法を行うか?
【推奨】小児急性期呼吸管理患者に対して、呼吸理学療法を行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号13:重症患者に対してICU退室後に強化リハビリテーションを行うか?
【推奨】重症患者に対して、ICU退室後に強化リハビリテーションを行うことを弱く推奨する(GRADE 2D:エビデンスの確実性=「非常に低」)。CQ番号14:重症患者のリハビリテーションにおける家族の参加とその意義は何か?
【推奨】重症患者のリハビリテーションにおける家族の参加には、離床などの実際に行われるリハビリテーションに直接参加して介助を行うこと、手を握って励ますなどリハビリテーションを行っている患者を支援すること、ADLの補助や患者の安楽に繋がるケアを行うことなどが含まれる。家族が参加することにより、患者のリハビリテーションに対するモチベーションが維持され、不安や不快感、リハビリテーション後の倦怠感が軽減されるなどの効果が期待される。また、患者の助けになりたいという家族のニーズを満たすことができ、ネガティブな信念、無益感や無力感を改善させる可能性がある。一方、家族のリハビリテーション参加は、患者や家族に精神的な負担を与える可能性があり、家族には十分な説明と教育を行った上で参加を提案する必要がある。(文献6を参考に著者作成)
チーム医療におけるガイドラインの活用
リハビリテーションは、医療スタッフ全員で取り組むチーム医療です。特に患者さんのそばで働く看護師の役割は重要です。看護師は、リハビリテーションの時間調整から実施、介助、その後の観察まで、幅広い業務を担当します。
チーム医療をスムーズかつ安全に行うためには、職種間で共通の理解をもつことが大切です。本診療ガイドラインは、そうした共通の理解を深めるために役立ちます。例えば、理学療法士がリハビリテーションを行っているとき、看護師は患者さんのバイタルサインや表情の変化を常に観察し、それが安全な範囲内かどうかを判断します。このとき、本診療ガイドラインに示された運動療法の中止基準が、判断の助けとなります。また、チームで患者さんに合ったリハビリテーションを考える際にも、本診療ガイドラインが参考になります。
ただし、本診療ガイドラインは絶対的な基準ではありません。あくまでも判断を助けるものです。例えば、看護師がリハビリテーション後の患者さんの強い疲労感に気づいた場合、それは翌日のリハビリテーション計画を考えるうえで重要な情報となります。このように、実際にベッドサイドで得られる情報を大切にし、状況に応じて柔軟にリハビリテーションを進めることも重要です。
「医療・看護の知っておきたいTOPIC」の記事一覧
- 1.Schweickert WD,Pohlman MC,Pohlman AS,et al.:Early physical and occupational therapy in mechanically ventilated,critically ill patients:a randomised controlled trial.Lancet 2009;373(9678):1874-1882.
2.Bailey P,Thomsen GE,Spuhler VJ,et al.:Early activity is feasible and safe in respiratory failure patients.Crit Care Med 2007;35(1):139-145.
3.Kress JP,Pohlman AS,OʼConnor MF,et al.:Daily interruption of sedative infusions in critically ill patients undergoing mechanical ventilation.N Engl J Med 2000;342(20):1471-1477.
4.Strøm T,Martinussen T,Toft P:A protocol of no sedation for critically ill patients receiving mechanical ventilation:a randomised trial.Lancet 2010;375(9713):475-480.
5.Zuercher P,Moret CS,Dziewas R,et al.Dysphagia in the intensive care unit:epidemiology, mechanisms, and clinical management.Crit Care 2019;23(1):103.
6.日本集中治療医学会:重症患者リハビリテーション診療ガイドライン2023.日集中医誌 2023;30:S905-972.
7.松下功:診療ガイドライン作成におけるGRADEシステム.臨床リウマチ 2020;32:177-180.
※この記事は『エキスパートナース』2025年4月号記事を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。

