6月19日(金)公開の映画『急に具合が悪くなる』。パリの介護施設の施設長とがん闘病中の演出家、同じ名前の響きをもつ女性2人が偶然出会い、絆を深めていく物語です。映画化にあたり、ユマニチュードが取り入れられた背景についても紹介します。
カンヌ国際映画祭で最優秀女優賞をW受賞
第79回カンヌ国際映画祭のコンペティション部門に出品され、主演のヴィルジニー・エフィラさんと岡本多緒さんが最優秀女優賞を受賞した、『急に具合が悪くなる』。『ドライブ・マイ・カー』でアカデミー賞®国際長編映画賞を受賞した濱口竜介監督の最新作です。
原作は、がんの転移を経験しながら生き抜く哲学者・宮野真生子さんと、臨床現場の調査を積み重ねた人類学者・磯野真穂さんが交わした、20通の往復書簡からなる同名書籍。映画では主人公をフランス人と日本人に置き換え、原作のエッセンスをすくいあげた新しい物語を展開しています。

理想の介護を追求するマリーと、余命半年の舞台演出家・真理
パリ郊外の介護施設「自由の庭」のディレクターとして、理想の介護を探求するマリー=ルー(演:ヴィルジニー・エフィラさん)。知覚・感情・言語による包括的なケア技法である「ユマニチュード*」を浸透させようと奮闘しています。ユマニチュードの研修を推進するものの、人手不足を理由に現場からは反発が起こります。
そんなある日、マリー=ルーは偶然出会った日本人の舞台演出家・森崎真理(演:岡本多緒さん)の公演を観に行くことに。上演後の質疑応答で、マリー=ルーの問いかけに対し、真理は進行がんで余命半年であることを伝えます。
劇場の外で待ち合わせ、日本語とフランス語を交えながらお互いのことを伝え合う2人。少子高齢化や資本主義といった社会の構造、ユマニチュード、死について……。会話は止まらず、夜通し語り合い、お互いがお互いの唯一無二の友人となります。
2人の絆が深まっていくなか、真理の病は進行していき――。彼女たちがともに過ごし、魂を通わせたひとときが、3時間16分の上映時間に凝縮されています。
ユマニチュード
フランスで生まれた、知覚・感情・言語による包括的なケアの哲学・技法。ケアを受ける人を「対象」ではなく、「人間」としてとらえる。「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つの要素を柱とし、複数を組み合わせながらケアを行う。さらに、すべてのケアを1つの物語のように一連の手順で実施する。
*ユマニチュードについての詳細はこちら

ベテラン看護師とのケアに対する価値観の違い
意見の相違からマリー=ルーと激しく対立するのが、ベテラン看護師のソフィ(演:マリー・ビュネルさん)。年3回ユマニチュードの研修に人員を割くことを、「現場の現実と合わない」と批判します。また、入居者の「歩く」行為を重視する方針にも、転倒リスクの点から疑問を呈します。
ケアに対する価値観が異なるものの、現実的なプロフェッショナルとして描かれるソフィ。真理との出会いを果たしたのち、マリー=ルーはソフィに歩み寄ることを決断します。さらに、理想を追い求めることに対する彼女の考えも明らかになり……。
他者を理解することの難しさ、それでもあきらめずに対話をした先にある喜びを映し出しています。
往復書簡を映像化するために盛り込まれたユマニチュードと演劇
往復書簡として構成された原作を映画化するにあたり、濱口監督は「距離」が必要だと考えたとのこと。その「距離」をつなぐ要素として思い当たったのが、以前から興味があったというユマニチュードでした。
濱口監督は、「この技法がめざす、高齢者個々の人生を活性化させようとする態度は、お2人の往復書簡ともつながるような印象があったからです。(中略)『介護』という行為が、単に抽象的に論をやり取りするだけでない『アクション』を映画にもたらすだろうとも考え、ここでようやく『急に具合が悪くなる』を映画にするうえでの筋道が立ったような気がしました」と語っています。
ユマニチュードに加えて濱口監督が盛り込んだのが、真理の演劇です。真理が手がけた公演「Da vicino nessuno è normale. 近づいてみれば、誰もまともな者はいない」は、イタリアで精神病院がどのように廃絶していったかをテーマにした物語。長塚京三さん演じる清宮吾朗が主演俳優として登場します。

主人公は精神病院でディレクターを務め、イタリア精神医療改革の中心的存在となったフランコ・バザーリア。文化人類学者・松嶋健さんの『プシコ ナウティカ―イタリア精神医療の人類学』(世界思想社)を参考とし、濱口監督がオリジナル戯曲を書き上げました。
同書に記された「〈人間〉に対するアニミズム」について、濱口監督は「『アニミズム』という言葉は、本来は魂を持たない存在に魂を感じることを指すわけですが、何よりも人間が人間を『魂をもった存在』として扱うことができていない、それをさせないのがこの社会なのではないか。そのことをこれほど端的に指摘した言葉はないように思われ、それを問題にする姿勢は『急に具合が悪くなる』とも響き合うように感じました」と話します。

「誰が精神病院を解体できると思った?重要なのは不可能が可能になることを示したことだ」との吾朗の言葉。困難な状況のなかでも希望を見いだしたくなる、そんな思いに寄り添ってくれます。
それぞれの方法で生と死を見つめながら、ともに過ごせる短い時間のなかで交流を深めていくマリー=ルーと真理。偶然が導いた2人の結びつきを、静けさをたたえた映像のなかで丁寧に描き出しています。
『急に具合が悪くなる』
6月19日(金)TOHO シネマズ日比谷ほか全国ロードショー出演:ヴィルジニー・エフィラ 岡本多緒 長塚京三 黒崎煌代
監督:濱口竜介
原作:宮野真生子・磯野真穂著『急に具合が悪くなる』(晶文社)
製作:Cinéfrance Studios, オフィス・シロウズ, ビターズ・エンド, Heimatfilm, Tarantula
配給:ビターズ・エンド
提供:Soudain JPN Partners フランス=日本=ドイツ=ベルギー合作
映倫:G
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