特に意識して水分出納(in-out)を確認すべき状況や病態とは?今回は利尿薬使用中、低張性脱水を考慮して水分出納を見るポイントについてです。利尿薬の電解質バランスへの影響や副作用も紹介します。
「in-out(水分出納)をみるのはこんなとき!」の連載まとめはこちら
脱水(in<out)

利尿薬によって尿量が増え、低張性脱水になる可能性がある
利尿薬を使用すると、尿量が増えます。利尿薬の種類によって薬剤の作用時間が異なりますが、尿量が急激に増えることにより、低張性脱水になる可能性があります。
またそれによって電解質バランスの崩れや循環動態の変化もありうるため、全身状態に影響があることを念頭に置き、in-outとその他の症状も観察していくことが重要です。
in-out:利尿薬の電解質バランスへの影響
利尿薬には、いくつか種類があります(図1)1。

以下、それぞれの薬剤の特徴をもとに、in-outバランス(特に電解質バランス)への影響を示します。
①ループ利尿薬
最も強力な利尿薬ですが、腎血流量・糸球体ろ過値を減少させず、腎障害時にも適することから、多く用いられます。
ループ利尿薬の代表的な薬剤・フロセミド(ラシックス®)では、作用発現時間が内服で1時間、静注で5~15分です。最初の1時間で最大の尿量が得られます。
作用機序として、ヘンレループ上行脚でのNa-K-Cl共輸送体を阻害するため、これらが尿として排泄され、低カリウム血症、低カルシウム血症、低マグネシウム血症と、それによる代謝性アルカローシスが起こる可能性があります。
②サイアサイド系利尿薬
降圧薬として使用されています。腎血流量低下作用があるため、血清クレアチニン≧2mg/dLでは禁忌です。
例としてトリクロルメチアジト(フルイトラン®)では、作用発現時間が2時間、最大尿量は6時間後です。
作用機序として遠位尿細管でのNa-Cl共輸送体を阻害することにより、Naの再吸収を抑制します。レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系が活性化している状態では多くのNaが遠位尿細管に到達してKとの交換を刺激するため、遠位尿細管においてKの排泄を増加させ、低カリウム血症、高カリウム血症と、それによる代謝性アルカローシスが起こる可能性があります。
③カリウム保持性利尿薬
遠位尿細管に作用し、ごく弱い利尿効果しかないものの、他の利尿薬の電解質代謝異常の補正に用いられます。
例としてスピロノラクトン(アルダクトン®A)では、作用発現時間が徐々(2~4日)、最大の利尿効果が得られるのは2~3日後となります。集合管でのミネラルコルチコイド受容体阻害により、高カリウム血症を起こす可能性があります。
④炭酸脱水酵素阻害薬
一般的な利尿薬としては使用されていません。アセタゾラミド(ダイアモックス®)が、呼吸性アシドーシス、緑内障などの症例に用いられています。近位尿細管でのHCO3-再吸収阻害により、低カリウム血症を起こす可能性があります。
⑤浸透圧利尿薬
浸透圧利尿薬の作用により、糸球体でろ過されても再吸収されません。また、化学変化を受けないため、尿細管内浸透圧が増加して、水・Naの再吸収が抑制されます。脳圧低下の症例に用いられます。
例えばD-マンニトール(マンニットール)では尿量への影響が大きく、濃グリセリン(グリセリン)のほうが尿量への影響が少ないと言われています。
作用機序は、近位尿細管での浸透圧利尿で、利尿以上に血管内ボリュームとして残留した量が多い場合、血漿浸透圧上昇によりうっ血性心不全、低ナトリウム血症などを起こす可能性があります。
利尿薬使用中のin-outの見方のコツ
out:利尿薬投与後の尿量変化を観察する
利尿薬投与後は、尿量の流出が増加します。その後、薬剤の効果がなくなり、尿量も低下します。
よって、「利尿薬投与前」と「投与後」のin-outバランスを観察します。マイナス(-)バランスへ大きく傾いて、尿量が低下(尿量<0.5mL/kg/時)、尿性状の変化(濃縮尿)が起こります。それに伴い、血圧低下、心拍数の増加、またモニタリングしているときは動脈圧の呼吸性移動が起こります。
out:利尿薬の副作用を評価する
薬剤の効果が出すぎていないかどうかを、副作用をもとに観察します(表1)。血圧低下やバイタルサインの変化もあるので、モニタリングを開始し、不整脈の出現、心電図変化をともに観察しましょう。
表1 利尿薬の主な副作用
Na
状態:低ナトリウム血症
症状:●頭痛・悪心・嘔吐 ●筋肉のけいれん ●失見当識 ●反射低下 ●血圧低下
注意点:急激な発症の場合は、てんかん発作、昏睡・ 呼吸停止、脳ヘルニアの症状が発現する
K
状態:低カリウム血症
症状:●しびれ・筋脱力・麻痺 ●心電図異常(QT延長、ST低下、T波平坦化、U波出現)
注意点:呼吸筋麻痺を起こすと呼吸停止に至る
状態:高カリウム血症
症状:●筋力低下 ●徐脈 ●心電図異常(QT間隔の短縮、T波の増高:テント状T波、QRS延長、PR間隔の短縮、P波消失)
注意点:高カリウム血症が続くと心室細動(VF)、心停止を引き起こす
Ca
状態:低カルシウム血症
症状:●感覚異常 ●テタニー(低カルシウムに伴うしびれ)
注意点:重症化するとけいれんに至る
Mg
状態:低マグネシウム血症
症状:●下肢のけいれん ●筋脱力 ●振戦 ●眼振 ●片頭痛 ●気管支喘息 ●慢性疲労症候群 ●運動機能低下 など
注意点:低カリウム血症と合併すると活動電位持続時間延長、QT延長から、トルサード・ド・ポアンツが発生しやすくなる
その他合併症
症状:●耳鳴り・難聴・めまい ●尿路結石 ●女性化乳房 ●多毛症 など
out:循環不全の徴候(ツルゴール反応など)をみる
循環不全、細胞内中毒の状態により、立ちくらみ、倦怠感、頭痛、嘔気・嘔吐、ツルゴール反応低下、腋窩・口腔粘膜の乾燥が起こりえます
ツルゴール反応は、主に前胸部の皮膚において、皮膚をつまんだのちに離し、その皮膚が3秒以内に元の状態に戻るかどうかで評価します。戻らなければ「ツルゴール低下」となります。脱水時には、皮膚の戻りが悪くなります。
利尿薬使用中のin-out報告のポイント
尿薬投与後は、いつもの尿量よりはるかに多くなります。薬剤ごとの利尿効果の得られる時間を確認し、利尿薬投与後の尿量への反応や、1日内での尿量の変化、in-outバランスの変化、そして体重の変化について観察します。
あわせて、皮膚の状態や、利尿薬投与前後のバイタルサインの変化(血圧低下、心拍数の増加)、意識レベルの変化(利尿薬の副作用)についても報告します。
利尿薬使用中のin-outを考えた対応
輸液量の確認
利尿効果により脱水になっている可能性があるため、in-outのバランスを観察し、輸液量や飲水量の制限がある場合は飲水できる量を医師へ確認します。
Na補正の準備
利尿薬投与に伴う脱水ではNaが低下しているため、輸液によるNa補正が開始される可能性があります。輸液ルートが確保されていないときは、静脈ラインの確保を行います。
モニタリングの開始
バイタルサインの変化がありうるため、もし行われていなければ、モニタリング(心拍数、血圧、呼吸〈SpO2〉)を開始します。
(第18回)
- 1.土田昌子:グループ別利尿薬の役割と特徴.ナースになじみの3つの「くすり」使いこなしガイド,エキスパートナース 2014(6月臨時増刊号);30(8):92-93.
- 1.絹川真太郎:循環器系5・利尿薬概略図.山田信博 編,治療薬イラストレイテッド改訂版,羊土社,東京,2009:59.
2.大野博司:各論・利尿薬の作用機序と副作用.ICU/CCUの薬の考え方、使い方ver2,中外医学社,東京,2015:260.
3.日本循環器学会,日本心不全学会:心不全診療ガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf
(2025.6.3アクセス)
4.大島千代美:電解質.鶴田良介 編,急性期ケアに必要な輸液の知識これだけBOOK エマージェンシー・ケア2012年(新春増刊),メディカ出版,大阪,2011:24-35.
5.戸谷昌樹:輸液と利尿薬との関係について知りたい.鶴田良介 編,急性期ケアに必要な輸液の知識これだけBOOK エマージェンシー・ケア2012年(新春増刊),メディカ出版,大阪,2011:116-124.
6.濱野繁:ICUにおける輸液・栄養・代謝管理とケア.道又元裕 監修,ICUビジュアルナーシング 改訂第2版,Gakken,東京,2021.
7.Leullmann H,Mohr K,Hein L 著,佐藤俊明 訳:利尿薬.カラー図解これならわかる薬理学(第2版),メディカル・サイエンスインターナショナル,東京,2012:164-169.
※この記事は『エキスパートナース』2016年10月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。


