検査データを読むために看護師が知っておきたいことを解説。検査データをフィジカルアセスメントとともに見ること、検査データをSBARに盛り込むことの重要性を紹介します。
※本記事は書籍『検査データって看護アセスメントにどう活かしたらいいですか?』の内容を再構成したものです。
最も大切なのは「検査データとフィジカルアセスメントの統合」
検査データは、それだけで患者さんの状態を語ってくれるものではありません。数値と、目の前の患者さんから得られる情報とを重ね合わせたとき、はじめて臨床的な意味を持ちます。
1.「検査データ→フィジカルアセスメント所見」の順に見る場合
たとえば、CRPが高いという結果が出たとします。この数値だけでは、「どこかに炎症がある」ということしかわかりません。
しかし、発熱の推移、呼吸音、創部の状態、尿の性状、カテーテルの刺入部、白血球の数と分画といった情報を重ねていくと、炎症の原因がどこにありそうかが見えてきて、観察の焦点が定まります。
本書の各症状の解説で「併せて見るべき症状と身体所見」を必ず示しているのは、このためです。
2.「フィジカルアセスメント所見→検査データ」の順に見る場合
逆に、フィジカルアセスメントで感じた違和感を、検査データが裏づけてくれることもあります。
「呼吸が浅い気がする」「反応が鈍い」といった気づきは、経験を重ねるほど大切にしたい感覚です。それを電解質の異常や貧血の進行、炎症の悪化といったデータと結びつけて説明できれば、あなたの気づきは「なんとなく」から「根拠のある判断」へと変わります。
この行き来を助けてくれるのが、本書Part1で整理した「疾患と症状のつながり」です。ある症状の背景にどのような疾患が考えられ、その疾患ではどのような検査データが動くのか。この地図を頭に入れておくと、目の前のデータと患者さんを1つの像として結びやすくなります。
データを見たら患者さんのところへ、患者さんを見たらデータへ。この往復を繰り返すうちに、統合的なアセスメントの「型」が自然と身についていきます。数値と患者さんを別々に見るのではなく、常に重ね合わせて考える。それが看護のアセスメントの醍醐味です。
SBARは「伝達ミスを防ぐ型」である
読み取ったことを患者さんのケアに活かすには、それを的確に「伝える」力が欠かせません。ここで役立つのが、SBARという報告の枠組みです。SBAR は、Situation(状況)、Background(背景)、Assessment(評価)、Recommendation(提案)の頭文字をとったもので、医師への報告やチーム内の情報共有で広く使われています。
1.SBARを用いれば、情報の抜け・漏れを最小限にできる
SBAR が医療安全の分野で重視されているのには理由があります。
医療事故の背景を分析すると、その多くに「情報がうまく伝わらなかった」という要素が関わっていることがわかっています。
●伝える側は言ったつもりでも、受け手には肝心な点が届いていない
●何が問題で、どうしてほしいのかが曖昧なまま話が終わってしまう
こうした伝達のずれが、対応の遅れや判断の誤りにつながっていくのです。
SBARは、この「伝わらなさ」を型の力で防ぐ道具です。焦っているときや相手が忙しそうなときほど、人は要点を飛ばしたり、順序が前後したりしがちです。あらかじめ4つの箱が用意されていれば、緊張していても「今どこを話しているか」を見失わずにすみます。
とりわけ経験の浅いうちは、頭のなかが整理しきれないまま電話に手が伸びるものです。そんなとき、SBAR という枠が、伝えるべきことの抜け落ちを防ぐ支えになってくれます。
2.最も重要なのは「必要な情報を過不足なく伝える」こと
大切なのは、SBARの「型を満たすこと」自体が目的ではない、ということです。SBARは「相手に正確に伝わり、必要な対応が遅れずに始まること」を目的として使うツールです。だからこそ、それぞれの箱に何を入れるかが問われます。

なお、近年では SBARの前後に2つの要素を加えた、I-SBAR-C という形も広がっています(表1)。報告前に名乗ること(Identify:特定)、報告の最後に受けた指示を復唱すること(Confirm:確認)です。この最初と最後のひと手間が、患者取り違え・指示の聞き間違いを防ぐことにつながります。
本書ではSBARを基本として解説しますが、この2つの確認も、ぜひ習慣にしてください。

3.伝える力は、一朝一夕に身につくものではない
こうした「伝える力」は、1人で机に向かって身につくものではありません。私自身、先輩看護師とともに
「私はこう考えたのですが、どうでしょう?」
「その視点なら、この値も見てみたら?」
と考えを行き来させるなかで、アセスメントの力を育ててもらいました。この思考のラリーは、とても大きな学びになります。
本書の Part2・Part3では、すべての事例にSBARの報告例を載せ、Part3では若手看護師と先輩看護師がやりとりしながらアセスメントを深めていく様子を描きました。どの情報がどの箱に入っているか、そして先輩がどこに着目したかを、意識しながら読んでみてください。
SBARに検査データを織り込むと、説得力がぐんと深まる
SBARの効果を最大にするのが、各段階に検査データを的確に織り込むことです。数値は、報告を「客観的な根拠」で裏づけてくれます。順を追って見てみましょう。
1.検査データは「B(背景)またはA(評価)」に盛り込む
まず、S(状況)では、いま何が起きているかを簡潔に伝えます。「Aさんに 38.9℃の発熱があります」といった、報告のきっかけとなる事実です。
次のB(背景)で、その状況を理解するために必要な情報を添えます。ここに検査データが効いてきます。「本日の採血で白血球とCRPが上昇しています」というように、経過のなかの変化としてデータを示すと、状況の重みが伝わります。
続くA(評価)は、それらの情報から自分がどう考えたかを述べる部分です。「呼吸数の増加と SpO2の低下、湿性咳嗽もあり、誤嚥性肺炎が疑われます」というように、データと所見を根拠に自分の見立てを言葉にします。ここで検査データを引用できるかどうかが、報告の説得力を左右します。
そして最後のR(提案)で、「追加検査や今後の対応について、診察をお願いしたいです」と、具体的な行動を提案します。
2.検査データを盛り込むことは、緊急性の共有につながる
検査データを織り込むことには、2つの安全上の意味があります。
1つは、命にかかわる値を見逃さず、その緊急度を相手と共有できることです。たとえばパニック値は、数字を添えて伝えるだけで、報告を受けた側の反応の速さが変わります。「Kが6.5です」の一言が、対応の初動を早めるわけです。
もう1つは、職種のあいだの認識のずれを埋められることです。医師、薬剤師、管理栄養士、リハビリテーションの専門職は、それぞれの視点で検査データを見ています。数値を根拠に伝えることで、同じ事実の上で話ができ、解釈の食い違いが起きにくくなります。
3.「迷ったら報告」の癖をつける
忘れてはいけないのが、報告は「ためらわずに、早めに」という原則です。確信が持てないうちは声を上げにくいものですが、迷ったら報告する、という姿勢が患者さんを守ります。
看護師が診断をくだすことはできません。しかし、身体所見と検査データをていねいに結びつけ、「〇〇かもしれません」と推論して伝えることはできます。その一言が、医師の判断を速く、正確にし、早期の対応を引き出します。
本書で学ぶ検査データの知識は、こうして「伝える力」と結びついたとき、はじめて臨床で本当の意味を持つといえるのだと思います。
\続きは書籍で/

検査データって看護アセスメントにどう活かしたらいいですか?
井上陽士、古賀雄二 編著
山本明彦 医学監修
照林社
2026年9月2日発売
B5版
2,970円(税込)
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