【第1回】PICSって何?
【第10回】PICS予防の視点③多職種連携
PICS」の関連記事はこちら

ABCDEFGHバンドルを一般病棟でどう使うか

 今回は、PICSの予防していくための有名なABCDEFGHバンドル(第3回)を、一般病棟でどのように当てはめて使用していけばよいのかを、医師の視点から看護師のみなさんにお願いしたいことや知識の共有をしてみたいと思います。

 ICUで重症肺炎の治療後の患者さんを想定して、一般病棟で看護師に考えてもらいたいことをまとめてみました。ABCDEFGHバンドルは、アルファベットの頭文字にそれぞれやるべきことを当てはめています。今回は日本語のみの記載としたいと思います。参考にしてみてください。

症例

 68歳の男性Aさんには既往は特にありません。ICUにてインフルエンザ肺炎による低酸素血症のためV-VECMOを行い、治療しました。その後、呼吸状態は回復してICUを第21病日に退室し、一般病棟に転棟してきました。
 患者さんは、経鼻カニューレ2L/分で酸素投与がされています。全身の筋力の低下が進み、自力歩行は困難な状況です。夜間の不眠も訴えています。

A 毎日の覚醒トライアル

 これは主に、ICUの人工呼吸器管理中の患者さんを想定した考えです。しかしながら、一般病棟でもこの発想は大切です。きちんと朝起きること、起き(続け)ていることは重要です。
 われわれ医師が毎朝の回診で病室にうかがった際に、よく患者さんが寝ていることがあります。できる限り、日中は起きているようにする必要があります。
 また、夜間に不穏や不眠のため、当直医師からさまざまな薬剤が投与された結果、翌朝ずっと寝てしまっているということがあるため、十分注意しなければなりません。

B 毎日の呼吸器離脱トライアル

 呼吸器離脱トライアルは、一般病棟では関係ないと思われるかもしれませんが、この患者さんのように酸素が投与されている場合には、酸素投与量を下げることができるか、医師とコミュニケーションをとって伝えていくことが大切です!われわれ医師も普段、患者さんをよく見ている看護師から「酸素下げられそうですね」と言われると安心します。

C ①A+Bの毎日の実践、②鎮静・鎮痛薬の選択

 ICUのように、デクスメデトミジン塩酸塩を静注するわけにはいかないので、経口で薬剤を投与することが大切です。今回の患者さんは痛みはありませんでしたが、痛みに対して適切なスケールを用いて、まずアセスメントしましょう。NRSを用いてアセスメントするとよいです。聖路加国際病院では、下記のように疼痛管理の手順が決まっており、マニュアル化しています。疼痛管理はとても重要ですね。

例えばNRS:1/10以上、4/10未満(軽度の疼痛)の場合
●患者の苦痛が強くない場合⇒担当医師は頓服の鎮痛薬を処方する
●患者の苦痛が強い、あるいは体動が困難な場合⇒鎮痛薬投与あるいは追加投与を検討する

D せん妄のモニタリングとマネジメント

 2018年に出たPADISガイドライン1では、変更可能なリスク因子としてベンゾジアゼピン系薬剤が挙げられているので、一般病棟でも引き続き守っていく必要があります。せん妄対策としてメラトニン受容体作動薬(ロゼレム®)やオレキシン受容体拮抗薬(ベルソムラ®)などの薬剤が注目されています。この患者さんは夜間の不眠を訴えていたので投与しました。

E 早期離床

 リハビリテーションの担当の医師とともに進めていく必要があります。ただ、医師はどうしても原疾患(肺炎)の治療に集中してしまっており、一般病棟では積極的に看護師から、離床やリハビリテーション介入について医師側に促してもらえると助かります。この患者さんの場合にも、原疾患の治療はほぼ終わっているので、リハビリテーションを積極的に行いました。

F 家族を含めた対応

 患者さん本人だけではなく、家族を含めた対応が大切です。一般病棟では病状が落ち着いてくるため、さまざま希望、関心、疑問が患者さん本人や家族から出てきます。そのような状況では、良好なコミュニケーションを図ることにより、患者さんの大切にしていることがはっきりして、家族の不安が少なくなります。

 その結果として、医療者も適切な医療を提供していくことが可能になります。この患者さんの場合には妻がほぼ毎日面会に来られていたため、積極的にコミュニケーションを図っていました。

G 良好な申し送り伝達

 ICUから一般病棟へ移る際には、良好な申し送りが欠かせません。申し送り表にはできれば、運動機能、認知機能、精神の問題を含めた情報が盛り込まれているとよいです。また、患者家族についての情報も含まれているとよいですね。

H PICSやPICS-Fについての書面での情報提供

 もしICU日記があれば、それを見直すことも大切です。ICU日記の内容などに対して質問を受けた際には、積極的に答えていくのも大切ですね。


1.Devlin JW,Skrobik Y,Gélinas C,et al.:Clinical Practice Guidelines for the Prevention and Management of Pain, Agitation/Sedation, Delirium,Immobility, and Sleep Disruption in Adult Patients in the ICU. Crit Care Med 2018;46(9):e825-e873.

この記事は『エキスパートナース』2019年8月号特集を再構成したものです。
当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。