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麻痺のある患者さんのおむつ交換のコツ#最終回
「脳」と「麻痺」の基本と応用について解説!最終回となる今回は、麻痺のある患者さんに行うおむつ交換のコツを紹介します。 * 臨床にいると、拘縮の強い患者に出会うことがよくあります。特に股関節の拘縮が強い場合は、陰部洗浄やおむつ交換などが大変難しくなります。股関節の拘縮があり皮膚の密着面がある場合は、清潔が保持しにくい状態になります。また、便や尿で汚れてしまうことで、感染のリスクも高くなります。 無理な姿勢は骨折につながる 拘縮があり、股関節が外旋しないからといって、無理に外旋位をとらせようとすると骨折を引き起こしかねません。特に、麻痺があって運動をしていない、また臥床傾向にあったりすると、筋肉はやせ、重力の影響が少ないために、骨自体が弱くなっていることが考えられます。 このような場合、無理な力は骨折を引き起こします。通常は転倒することにより骨折を起こしたりしますが、われわれの不用意な看護ケアによって引き起こされる骨折もあります。おむつ交換の際に骨折する事例もあるようです。これを「おむつ骨折」と言います。 おむつ交換の動作で骨折を引き起こさないためには、やはり股関節の可動域を知っておく必要があります。拘縮がある患者さんは、可動域が狭くなっているため、どのくらいまでなら曲げることができるのか? 外旋することができるのか? などの情報収集が必要です。拘縮を起こさないことは言うまでもありませんが、拘縮がある患者さんのケアを行うときには、より注意をする必要があります。 拘縮のある患者におむつをフィットさせるコツ また拘縮があると、おむつをフィットさせることが困難となり、それが尿漏れなどの原因となってしまいます。患者さんそれぞれの症状は違いますから、その患者さんに適した方法を考えていかなければなりません。 また、現在はおむつの種類もいろいろとあります。尿とりパットも吸収量が多いものや、男性用のものもあります。技術ばかりにとらわれるのではなく、患者さんにあった物品を選択することも私たちの役割の1つです。 また、おむつを何枚も重ねるということがあってはなりません。おむつを重ねることが、かえって可動域を狭くし、拘縮を助長させているかもしれないからです。 麻痺側の姿勢にも常に気を配る このブロック以降のコンテンツは非表示になります おむつに便をしている場合、拭き取ったり洗浄したりというケアに時間を要します。感覚障害がある患者さんにおいては、体位変換時に障害部位が下になっていたとしても、正確に訴えることができません。おむつをきれいにしようという思いが優先してしまうことは、臨床にいるとよくわかります。その際、腕が身体の下敷きになっていないかなど、周りに目を向けることができる看護師はとてもすばらしいと思います。 感覚障害以外では、弛緩性の麻痺がある患者さんにも同様のことが言えます。側臥位に変えるときには、弛緩している腕をしっかりと固定して体位変換をする必要があります。保持せずにそのまま体位を変えてしまうと、腕の重みで脱臼することもあります。患者さんの症状によっては、麻痺があるほうの腕を、自分の腕と認識していない方もいるからです(病態失認という高次脳機能障害です)。 看護のポイント●「おむつ骨折」を起こさないよう、まず股関節の可動域をしっかり把握する。●患者さんに合った用具を選択する。●おむつ交換中もおむつだけに気を取られず、動かせない麻痺側の姿勢に気をつけましょう。 ROM訓練などは必ずリハビリ専門職に相談を 拘縮のある患者さんのケアをしているときに、「ROM訓練などを実施して、拘縮の改善を図れないか?」と考えることもあるかと思います。しかし、自己の経験や知識だけに基づいて拘縮に対するケアを行うと、痛みから患者さんが拒否的になったり、かえって筋緊張を高めたりします。場合によっては骨折したりと、危険を伴う可能性があります。 ケアの一環としてROM訓練を導入することはとても大事なことですが、もっと大事なことは、患者さんの安全です。拘縮の改善に向け、なにか取り組みを行いたいと考えるのであれば、理学療法士や作業療法士に相談するのがよいと思います。 無理しすぎてやりすぎてしまうことを「過用」、間違った方法でやることを「誤用」と言います。私たちのケアが患者さんの回復力を妨げたりすることがあってはなりません。より専門的な人の意見を聞きながら、看護に取り入れていく必要がありますね。 引用文献1.田上みゆき,池田小百合,矢津田千鶴:強度の四肢拘縮によって尿漏れのある患者に対するオムツ交換の取り組み―高機能型オムツ導入の効果-.2.中野聡太,甲斐悟,高橋精一郎:股関節開排角度とオムツ交換の関係性.第44回日本理学療法学術大会抄録集;36(2). さらに学ぶならおむつからの下痢漏れを防ぐには?拘縮患者への対応と工夫おむつに注目!褥瘡・IAD予防のための実践セミナー「脳からわかる麻痺の看護」の記事一覧そのほかの連載記事はこちら ※この記事は『エキスパートナース』2018年3月号特集を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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結腸の糞便塞栓・糞便性イレウスとは?#4
便秘には、ときには重篤化する病態が潜んでいることも。重篤な便秘の見きわめ方を知りましょう。今回は、重篤な便秘のはじまりである「糞便塞栓」と「糞便性イレウス」について。結腸における糞便塞栓・糞便性イレウスの症状、検査・診断、治療を解説します。 結腸における糞便塞栓・糞便性イレウスの症状 結腸における糞便塞栓では、図1のような症状が見られます。 図1 糞便塞栓(結腸) 初発症状:初期の症状は見逃されやすい 初期では、便秘、食欲低下、腹部膨満に限られた症状であり、他の症状は出現しません。このため慢性便秘症にあっては、この時期は見過ごされてしまいます。 遅発症状:症状出現期には、多様な症状が出現 症状出現期においては腹痛、下血が出現し、腸閉塞(イレウス)症状として腹部膨満、嘔気・嘔吐、食欲低下が出現します。 腸閉塞症状があるものは、糞便性イレウスと呼びます。全身症状としての発熱があります。 遅発症状:全身性炎症反応症候群や、ショックが起きることも 進行期においては、前述の症状に加えて、頻呼吸、頻脈などの全身性炎症反応症候群(SIRS) による症状やショック症状を呈します。 結腸における糞便塞栓・糞便性イレウスの検査と診断 腹膜炎の症状と便の観察を行う 直腸の糞便塞栓に比べて、診断(表1)が遅れるぶん、重症化します。腹部所見として、宿便部に圧痛を認めます。反跳痛や筋性防御を認めるものは、腹膜炎が疑われます。 このブロック以降のコンテンツは非表示になります 表1 診断自覚症状便秘→腹部膨満→腹痛、嘔気・嘔吐腹部所見●圧痛糞便塞栓・腸管拡張、虚血性腸炎、壁内気腫、潰瘍、腸壊死●筋性防御穿孔・腹膜炎 ※著明な腹部膨満例では鑑別が難しい 大腸内視鏡検査で器質的原因や宿便の位置を見る 直腸には便が下降しておらず、直腸指診では診断できません。代わりに大腸内視鏡検査が有用となります。 最初に大腸がんやS状結腸軸捻転などの器質的原因を調べます。特に便の下降を妨げるものはないのに、肛門縁から約10~40cm離れた部位(直腸S状部―S状結腸―下行結腸)に宿便が存在するものが結腸の糞便塞栓と呼ばれるものです。 観察する点は、便の性状、下血の有無、腸管粘膜の性状です。宿便部では、静脈還流障害・うっ血・血栓が原因1で、虚血性腸炎(図2)や宿便性潰瘍(図1-①)が生じることがあります。 図2 虚血症腸炎のメカニズム 閉塞性腸炎では、虚血性腸炎、潰瘍、腸管壊死が起こる 宿便は、口側の腸管にも影響を与えます。宿便を下降させるために、口側腸管の腸管蠕動は亢進し、ガスの停滞により拡張します。それが原因で口側腸管には閉塞性腸炎が生じます。 閉塞性腸炎は虚血性腸炎、潰瘍(図1-②)、腸管壊死の病態です。虚血性腸炎と潰瘍は共存することが多く(図1-①)、多発性の微小穿孔(図3)がみられたりします。直腸と比べて下血が少ない印象です。 以上のことを踏まえて、宿便に伴う腸病変は虚血性腸疾患と考えています。便は停滞し、ガスの通過が良好なものでは、イレウス症状の出現はみられません。 図3 糞石による潰瘍の穿通 糞便性イレウスの診断には、腹部造影CTを実施 また特殊例として、直腸の糞便塞栓でみられた同じ現象(有形便の停滞・無形便の下降)の糞便性イレウスがあります。 腹部単純X線検査では、小腸のイレウスと異なりニボー像をとることはありません。結腸内の多量の糞便やガスの存在が特徴です。 腹部CT検査は有用であり、特に、造影CT検査が勧められます。便やガスの結腸内存在部位・量、壁内気腫、壁肥厚、遊離ガスが診断されます(表2)。 進行期において血液検査では、炎症性マーカーが高値となり、血液ガスで代謝性アシドーシスになります(表3)。 表2 画像による診断①腹部単純X線検査宿便、腸管拡張、腹腔内遊離ガス(立位の実施ができないこともある)②CT検査宿便、腸管拡張、壁内気腫、イレウス(捻転)、穿孔(腹腔内遊離ガス、後腹膜腔ガス)③大腸内視鏡検査宿便、虚血性腸炎、潰瘍、腸粘膜壊死 表3 血液検査による診断 結腸における糞便塞栓・糞便性イレウスの治療 発症初期:腸管蠕動の亢進や、便の軟化を助ける薬剤等を用いる 図4 糞便閉塞の進展と全身への影響 発症初期(図4-①)であれば、糖類下剤や刺激性下剤の投与を行います。糖類下剤は浸透圧性作用と腸内細菌の有機酸合成により腸管蠕動亢進作用があります。刺激性下剤は腸管蠕動亢進作用があります。 また成分栄養剤であるエレンタール®を投与します。これは、栄養補助のみならず、副作用としての浸透圧性下痢が、便の軟化や便の移動に役立ちます。 また即効性を期待して、腸管蠕動促進作用のあるガストログラフィン®少量(20mL)を経口服用させます。ガストログラフィン®は水溶性ヨード剤で、生理食塩水に対する浸透圧比が9倍あります。そのためガストログラフィン®容量の8倍の水分を、体内からガストログラフィン®のある腸管内のほうへ移動させます。この際、体は脱水症状となるのでその予防として、細胞外液の補液を行います。 ガストログラフィン®は、小腸の亜腸閉塞症の治療に用いられて、服用後24時間以内に直腸に到達すれば小腸の腸閉塞は軽快したものとみなします。また24時間以内に大腸に到達しない例は、完全腸閉塞として手術適応2です。 排便がみられるまでは、水分やエレンタール®摂取のみとします。ガストログラフィン®は、便秘が遷延した際に、糞便性イレウスへの移行期の診断と治療において有力な手段となります。 症状出現期以降:大腸内視鏡による治療を行う 症状出現期以降(図4-②、③)の経口下剤やガストログラフィン®投与は、口側腸管に過度な負荷をかけて、腹痛や嘔吐の増悪になることが多く、避けたほうがよいでしょう。 この時期の大腸内視鏡による治療は、便下降を促進させる目的で、頻回に少量の生理食塩水(20mL/ 回)を注入します。便の除去、粘液の粘稠性の低下、便軟化に役立ちます。 実施時の注意点は、腸管拡張を予防することです。液状化させた便やガスの吸引は、こまめに行います。1回の検査で使用する生理食塩水総量は200~1,500mL位になります。検査後は絶食点滴とします。24時間経っても排便がみられない場合は、再治療します。 進行期では、開腹による病変除去・人工肛門造設を検討し、敗血症や敗血症性ショックに対する集中治療を行います。 直腸・結腸の糞便塞栓の検査と治療のまとめ 便秘症の患者さんが腹部膨満・食欲低下・嘔気・肛門痛・腹痛・下血を訴えたら、 重篤な便秘を想定します。直腸指診や腹部視診・触診が診断の端緒となります。 検査と治療は、それぞれ表4の通り進みます。 表4 便停滞部位ごとの検査と治療(まとめ) 引用文献1.寺井志保,安藤正夫:宿便性潰瘍.消化器内視鏡 2010;22(8):1279-1284.2.Patrick GJ,Manish R:Evaluation and Manage ment of Intestinal ObstructionAm Fam Physician 2011;83(2):155-165. さらに学ぶなら前回の記事直腸における糞便塞栓#3オピオイド誘発性便秘(OIC)への対策はどうする?便秘の患者さんでX線画像を撮る理由そのほかの連載はこちら 【第5回】便秘のアセスメント基準とは?(7月8日配信予定) ※この記事は『エキスパートナース』2016年6月号特集を再構成したものです。本記事の無断転載を禁じます。
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肺塞栓と喘息発作の特徴的所見:見逃せない救急症候#17
患者さんの訴えから重大な疾患を見きわめて、すぐに対応するには?今回は呼吸困難を起こすキラーディジーズ「肺塞栓」「喘息発作」の症状や特徴的な所見、初期対応について紹介します。 参考:【第13回】呼吸困難時のアセスメント:救急症候を見逃さないために 肺塞栓の症状 ●呼吸困難●胸痛●頻呼吸●頻脈●血圧低下、ショック●チアノーゼ●喘鳴●頸静脈怒張*離床時や術後など、起こりやすい場面に注意する 肺塞栓のメカニズムと、特徴的な所見 長期臥床後など、リスクの有無を確認する 肺塞栓は、静脈中の血栓や塞栓物質が遊離して急激に肺動脈を閉塞することにより生じます。肺血管を閉塞する血栓塞栓の大きさにより、無症状のものから致死的なものまでさまざまです。 突然の呼吸困難と呼吸に伴う胸痛が特徴的なため、発症時間、胸痛の有無と性質、その他の自覚症状を問診します。また、塞栓源となる深部静脈血栓症(DVT)のリスクの有無の聴取が重要です。血栓性素因(血液凝固系の異常、膠原病、悪性腫瘍)の既往歴の有無や、長期の座位、長期臥床後の離床、手術後や産後などは発症の要因となります。 そのため、このような発症の可能性のある場面では、呼吸状態の観察、付き添い歩行などを必ず行うことで異常の早期発見につなげることも大切です。 頻呼吸などの症状と、DVTを示す下肢の症状をみる 身体所見としては、頻呼吸、頻脈となり、ショック症状やチアノーゼが出現し、肺高血圧から右心不全をきたすと頸静脈怒張を認めます。呼吸音では気管支攣縮による喘鳴が聴取される場合もあります。 DVTの症状として、片側の下肢の腫脹、疼痛、ホーマンズ徴候(【第9回】・図1参照)を確認します。 このブロック以降のコンテンツは非表示になります 肺塞栓での初期対応 胸痛の訴えがある場合は、12誘導心電図検査を行います。また、末梢静脈路を確保する際に、肺塞栓を疑う場合は採血でDダイマーの検査を行います。その他に、心臓超音波検査や胸部X線検査、造影CTなど必要な検査が多数あるため準備を行います。肺塞栓と診断された場合、血栓溶解療法やカテーテル治療が必要となるため準備を行います。 喘息発作の症状 ●起坐呼吸、呼吸補助筋を用いた努力呼吸●喘鳴●呼気延長●連続性ラ音(wheeze〈ウィーズ〉および rhonchi〈ロンカイ〉)● 咳嗽 喘息発作のメカニズムと、特徴的な所見 全年齢層でみられる「気道狭窄」を起こす疾患 気管支喘息は、気管・気管支平滑筋の攣縮、気管内分泌物の過多、気道粘膜の浮腫など、広範な気道の狭窄が特徴となる疾患で、小児から高齢者まですべての年齢層にみられます。 発作強度や重症度にも幅があり、自然寛解や一過性で治療により改善する軽度の発作から、致死的となる重篤な発作まであります。 喘鳴と連続性ラ音が聴かれるのが特徴 呼吸困難に加えて喘鳴が特徴的です。視診では、重度の呼吸困難から臥位が保てず起坐呼吸(【第13回】参照)となります。また、頻呼吸や、呼吸補助筋を用いた努力呼吸がみられ、胸鎖乳突筋の緊張や鎖骨上部の陥没もみられます(【第13回】参照)。会話は単語の単位で途切れ、湿性咳嗽や呼気延長を認めます。 聴診では、気道狭窄を示す高調性連続性ラ音(wheeze、笛音)が聴取されます。しかし、気道閉塞の継続により呼吸音が減弱し、wheezeも聴取されない場合はサイレントチェストとよばれ、重症であり呼吸停止前のサインと判断します。そのため、継続的に呼吸状態の観察を行います。 また、低酸素血症を代償しようと頻呼吸になりますが、発作が持続すると高二酸化炭素血症から CO2 ナルコーシスとなり、意識障害を起こす可能性もあるため、意識レベルの変化にも注意が必要です。 既往歴の確認を行う 問診では、喘息や肺疾患、呼吸器疾患の既往歴、アレルギーの確認をします。喘息の既往歴がない場合は、以前に同様の症状を呈した状況などがないかもあわせて確認します。喘息発作では、心不全と症状が類似しているため、鑑別に注意が必要です。 喘息発作での初期対応 喘息発作時の第一選択薬はβ刺激薬の吸入です。しかし、重積発作時は時間的猶予がないため、アドレナリンの皮下注射、ステロイド薬の点滴静注、短時間作用性テオフィリン投与などさまざまな薬剤投与を並行して行います。 また、サイレントチェストや高度な気道狭窄を認める場合、気管挿管を行い、人工呼吸器管理が必要となるため準備を行います。 参考文献1.三上剛人編:気づいて見抜いてすぐ動く急変対応と蘇生の技術.南江堂,東京,2016.2.佐藤憲明編:どう見る!どう動く! 場面別急変対応マニュアル.照林社,東京,2010.3.野々上智:呼吸困難の評価と初期対応 ベッドサイドで行うべき原因検索と初期対応とは 院内急変! まずは何をすべきか.レジデントノート2011;13(1). 【最終回】心不全/急性冠症候群(ACS)のメカニズムと初期対応(7月7日配信予定) さらに学ぶなら肺塞栓症を疑って胸痛・呼吸困難での画像を見るポイント「見逃せない救急症候」の記事一覧そのほかの連載はこちら ※この記事は『エキスパートナース』2018年4月号連載を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。
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