NHK連続テレビ小説『風、薫る』で、坂東彌十郎さんが演じている清水卯三郎(しみず・うさぶろう)。実在の卯三郎はどのような人物だったのか、歴史をひもといて紹介します。
『風、薫る』に登場する清水卯三郎(演:坂東彌十郎さん)。日本橋で舶来品などを手広く扱う「瑞穂屋」を営んでいます。りん、直美とは深く関わりをもつことに……。


語学が堪能、福沢諭吉や五代友厚ともかかわりが!
清水卯三郎は1829(文政)12年、現在の埼玉県羽生市の造り酒屋に生まれました。
21歳のときに江戸に出て、オランダ語やロシア語、英語を習得。1863(文久3)年の薩英戦争では、イギリスの軍艦に乗り、通訳として和平に尽力しました。親交の深かった福沢諭吉は、『福翁自伝(ふくおうじでん)』でこのできごとを詳しく紹介し、卯三郎の功績を評価しています。
またこのとき、卯三郎はイギリス軍艦に捕らわれていた薩摩藩の五代友厚(ごだい・ともあつ)らを救出。故郷に連れて帰り、親戚の家などでかくまいました。NHK連続テレビ小説『あさが来た』、大河ドラマ『青天を衝け』でディーン・フジオカさんが演じていた“五代さま”とも面識があったのです。
パリ万国博覧会に日本唯一の商人として参加
さらに、卯三郎が語学力を活かして活躍したエピソードが残っています。それが、1867(慶応3)年のパリ万国博覧会。日本が初めて参加した万国博覧会です。幕府、薩摩藩、佐賀藩が出展するなか、卯三郎は唯一の商人として参加しました。
ちなみに、卯三郎が幕府に提出した博覧会の出品願いを許可したのは、勘定奉行の小栗忠順(おぐり・ただまさ)。2027年の大河ドラマ『逆賊の幕臣』の主人公で、松坂桃李さんが演じます。また、卯三郎とともにパリに向かった使節団のなかには、1万円札の顔である渋沢栄一(しぶさわ・えいいち)も。こちらは大河ドラマ『青天を衝け』の主人公で、吉沢亮さんが演じていました。
博覧会で卯三郎は、弓矢、甲冑(かっちゅう)などの武器、大豆、しょうゆ、お茶などの飲食物、そのほか扇、下駄、人形、下駄など、多岐にわたる1,180点もの品物を出展。これらの品物は幕府から1万5,000両の借金をし、さらに自分でお金を集めて買いそろえたものでした。
特に注目を集めたのが、会場に建てた水茶屋。日本から連れてきた芸者がお茶やお菓子で来場者をもてなしました。こうして博覧会を盛り上げた功績が認められ、卯三郎はフランス皇帝・ナポレオン3世から名前入りの銀メダルを授与されます。
博覧会の後、欧米各国を巡って1868(明治元)年に帰国。活版機械、鉱物標本、西洋花火などを持ち帰っています。
「瑞穂屋」を日本橋に開業、歯科器械の輸入販売・歯科関係書籍を出版
卯三郎は帰国後、浅草に「瑞穂屋」を開業。1869(明治2)年には日本橋に移転しました。『風、薫る』では、ウサギの絵がデザインされた看板と、ウサギの人形が印象的な店として描かれています。
「瑞穂屋」は洋書や器械、薬種を輸入・販売するほか、新聞・書籍・雑誌の出版も行いました。
また、卯三郎はアメリカで歯科治療器材を目にしたことから、1876(明治9)年に日本で初めて歯科治療器材を輸入。アメリカのホワイト社から12点を取り寄せました。
1881(明治14)年には、歯科専門書『固齢草』を出版。その後、『歯科全書』『歯科薬物摘要』『歯科医術開業試験問題集』など、多くの歯科関係の書物を出版しています。『歯科雑誌』では、アメリカの歯科雑誌に載る最新の情報が日本語に訳して伝えられました。
さらに、日本初の歯科器械工場も設立。1895(明治28)年には第4回内国勧業博覧会に歯科用具を出品し、賞を受けるなど、日本の歯科医学の発展に大きく貢献したのです。

瑞穂屋の常連!勝海舟との交流
『風、薫る』では今後、片岡鶴太郎さんが演じる勝海舟(かつ・かいしゅう)がときおり瑞穂屋を訪れるそう。史実でも、2人の交流が深かったことがわかっています。
2人の出会いは、1857(安政4)年。幕府が開設した長崎海軍伝習所(海軍の養成機関)で学ぶことを願い、卯三郎は長崎に足を運びます。商人であることを理由に断られてしまいますが、そのときに長崎海軍伝習所に派遣されていたのが勝海舟でした。
勝海舟が約37年間にわたって書いていた『海舟日記』には、たびたび卯三郎が登場。卯三郎から洋書を買ったり、お金を貸したり。大晦日に家を訪ねることもあるなど、2人の親交の深さがうかがえます。

出典:国立国会図書館「近代日本人の肖像」 (https://www.ndl.go.jp/portrait/)
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森有礼(もり・ありのり)、福沢諭吉などが集った学術団体「明六社(めいろくしゃ)」にも参加した卯三郎。かな文字の書物を数多く出版するなど、ひらがなの普及にも力を注ぎました。
語学が堪能で、多方面に関心をもち、初めてのこと・新しいことにどんどん挑戦していく――。そんな卯三郎との出会いが、りんと直美にどう影響していくのか、今後の展開に注目です!
〈坂東 彌十郎さんコメント〉
――清水卯三郎という人物はどのような人だと思いますか?
清水卯三郎という人物は1867年のパリ万国博覧会にも商人として参加していて、早くから英語や外国の文化にも興味を持った人。時代の変化にも好奇心旺盛に飛び込んでいった人間なのではないでしょうか。
このドラマの中でどういう役割を担うのかを考えたとき、イメージが固まらないように実在の方のことはあえて深掘りはせず、演出の方たちがこの作品で作ろうとしている卯三郎の像に少しでも寄り添いたいと思いました。
最初に演出の方々と打ち合わせをしたときに言われたのが「『不思議の国のアリス』のうさぎのイメージです」だったんです。それにはとても驚いたのですが、りんとの出会いのシーンでは、りんが食べたことのないチョコレートをあげたりマジックを披露したりして、まさに迷っているりんを新たな世界に誘(いざな)う不思議で楽しい人物なのだと感じました。
時代が変わっていくことや新しいことにワクワクする卯三郎は、座っているりんを見て、なんとなく人とは違う悩みを抱えていることに気づき声をかけ、彼女の話にとても興味を持ったので自分のお店へ誘ったのだと思います。
――卯三郎さんのお店「瑞穂屋」の印象はいかがですか?
「瑞穂屋」のセットはおもしろいですよ。まず狭い(笑)。僕は体が大きいので最初は歩くのに一苦労でしたが最近コツがわかってきました。
その狭い空間に大量の商品が並んでいて、置いてあるものはひとつひとつ凝っている。
あの時代に外国から入ってきたものを日本人に紹介するという一面と、日本の古いものを外国の人に紹介する一面が混ざっているお店なので、見ているだけで楽しいです。
なんにでも興味のある卯三郎はどんどん買い集めてしまうのでしょうね。
お店の前にはうさぎの置物もありますし、僕の衣装もハットをかぶりステッキを持ち蝶ネクタイ。外国の方や若い人たちが集う不思議な国への入り口のようなお店です。
卯三郎はビジネスマンという側面を持ちつつ、おもしろがりながら社会が変わっていく手助けをしていく人だと思うので、物語が進みりんや直美が看護師の道へと進む中で、この先どのように関わっていくのかもとても楽しみにしています。
- 〈参考文献〉
1.今井博昭:清水卯三郎 文明開化の多彩な先駆者.さきたま出版会,埼玉,2022.
2.勝部真長,松本三之介,大口勇次郎 編:勝海舟全集18-22.勁草書房,東京,1972-1973.
2.澤護:清水卯三郎―1867年パリ万国博をめぐって―.千葉敬愛経済大学研究論集 1981;19:493-511.
3.白山映子:清水卯三郎の政治観―『当世言逆論 政体篇』を素材として―.東京大学大学院教育学研究科紀要 2009;49:333-345.
4.長谷川俊夫:我国歯科器械の発展について.日本歯科医史学会会誌1976;3(3):79-80.
5.福沢諭吉:新訂 福翁自伝.岩波書店,東京,1978.
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