ナラティヴ・アプローチの意味や特徴、看護への応用について解説。患者の「語り」を看護ケアに活かすためにナースが知っておきたいポイントを紹介します。

●「ナラティヴ」の意味とは?
●医療分野で用いられるナラティヴ・アプローチの特徴
●構築論と実在論
●ナラティヴ・アプローチの疾病観
●ナラティヴ・アプローチの看護への応用

「ナラティヴ」の意味とは?

 現在の医療分野では、ナラティヴ・ベイスド・メディシン(narrative based medicine)やナラティヴ・メディシン(narrative medicine)といった言葉が使用されるようになっており、エキスパートナースの読者の皆さんも「ナラティヴ」という言葉自体はご存知の方が多いと思われます。「ナラティヴ」は英語「narrative」のカタカナ表記で、通常「語り」とか「物語」と訳されます。実際には、「語る」という行為を示す動詞的な意味と、その行為の産物である「語られたもの」「物語」という名詞的な意味を同時に含む用語です1

 「語り」や「物語」を意味するナラティヴは、その言葉が示すように、本来は文学領域の用語でした。物語の研究については、その起源は古代ギリシャの哲学者アリストテレスの著書『詩学』まで遡ると考えられています2

 このように、文学領域で研究されてきた「ナラティヴ」が、なぜ対人援助を行う医療分野において用いられるようになったのでしょうか。その背景には、1980年代の「言語論的転回」「物語的転回」と呼ばれる現代思想*1の大きな変化がありました。私たちが生活する世界において、「言葉」が大きな役割を果たしていること、そして、その言葉が「語り」や「物語」という形式をとるときに、大きな力をもつことが注目されるようになったのです。そして、人間の活動における行為や関係を、「言葉」「語り」「物語」という視点からとらえ直す作業が人文科学、社会科学の領域で活発になりました。

 そして、2000年前後からは、特に言葉や語りのやりとりが重要とされる医療分野においても「ナラティヴ」による行為や視点の見直しが期待されるようになりました3

*1【現代思想】20世紀中ごろ以降、哲学や言語学などの分野で現れたさまざまな考え方やその枠組み、またそれらによる学問の流れなどを指す。

医療分野で用いられるナラティヴ・アプローチの特徴

 ナラティヴ・アプローチとは、ナラティヴの概念を利用し、現実で起きている事象に接近するための研究や実践の方法(アプローチ)のことをいいます4。しかし、医療分野におけるナラティヴ・アプローチは、単に研究や実践に関する特定の方法を指すものとして考えるのではなく、「研究者や実践者が対象とする事象にどう臨むのか」という態度に関する概念ととらえる必要があると考えられています5

 最初に、ナラティヴ・アプローチの4つの特徴を見ていきます(表11

表1 ナラティヴ・アプローチの4つの性質

①主観性
語りの主体自身がどのように感じ、考え、言葉にしているのかを重視する

②関係性
語り手と聞き手がどのような関係なのかに注意する。例えば、語り手が患者であるとき、聞き手が家族なのか医療従事者なのかによって語りの内容は変わりうる

③多様性
語る相手によってナラティヴは多様になりうる。さらにそのナラティヴも多様な意味に解釈可能であり、重層的な多様性をもちうることに留意する

④更新性
繰り返し語るうちに、同じことがらでも意味が変わったり、さらには語りの内容が変化することもある(「最初に語ったものが正しい」「最新のものが正しい」などと決まっているわけではなく、そもそも変化しうるものとして考える)

(文献1を参考に作成)

 第一は、物語を語る当事者の「主観性」を重視することです。
 第二は、語り手と聞き手との相互の「関係性」が影響することです。両者がどのような関係にあるのかによって、ナラティヴは変化します。
 第三は、相互関係のなかから生み出されたナラティヴには「多様性」があることです。この「多様性」には、「語る相手によってナラティヴは変わる」という意味の多様性と、そのナラティヴが「多様な意味に解釈できる」という意味の多様性が含まれます。
 そして第四は、語り手と聞き手の相互のやりとりのなかで、何度もナラティヴは更新されるという「更新性」があることです。

 私たちは同じことがらを繰り返し語っているうちに、自分のなかでそのことに対する意味づけが変わり、そして意味づけが変わると、語る内容自体が変化することがあります。そのようなナラティヴの書き換えを認めることも、ナラティヴ・アプローチの特徴です1

こちらもチェック
●看護実践を記述する:ナラティブの重要性

構築論と実在論

 ナラティヴ・アプローチの特徴の理解を深めるために、ナラティヴ・アプローチの哲学的基盤である「構築論(構築主義、constructionism)」について説明します。構築論とは、ある事象は「人間の認識によって存在する」とみなす態度、および考え方のことをいいます。この構築論は、ある事象は「人間の認識とは独立して存在する」とみなす実在論(realism)に対置する概念として提案されました。

実在論的な症状の見方

 例えば、医療現場における早期がんを考えてみます。ごく初期段階のがんが身体にできている場合、多くの患者に自覚症状はなく、また医師も検査によって確認できないことがあります。この場合は、がんは患者と医師の双方の認識と無関係に存在していることになります。つまり、このような早期がんは「人間(患者)の認識とは独立して存在する」事象といえます。このような認識は「実在論」に基づくものです5

構築論的な症状の見方

 一方で、患者の「痛み」について考えてみます。痛みの原因が体内の炎症や組織損傷によるもので、患者も痛みを訴えている場合には、その「痛み」はそこに存在するものと認識できます(実在論的認識)。しかし、患者の痛みは、常にそうした明確なものだけではありません。

 例えば、患者が「この部位が痛い」と訴えたとしても、検査などからは、その部位に炎症や組織損傷などの原因が認められないことがあります。この場合、その痛みを「ない」と見るのか「ある」と見るのかを考えるとき、患者が確かに「痛い」と言っているのだから、その痛みを「ある」と考える、つまり「人間(患者)の認識によって存在する」という見方が、構築論に基づく考え方です5図1に、実在論と構築論の比較を示します。

図2 実在論と構築論による「痛み」のとらえ方の比較
実在論と構築論による「痛み」のとらえ方を比較した図

ナラティヴ・アプローチの疾病観

 前項では、事象に対する認識には「実在論」と「構築論」の2つの考え方があることについて紹介しました。医療現場で考えるとき、事象としての病気や障害をどのように認識するのかという課題は、疾病観の違いとして考えられます。

 少なくとも20世紀半ば以降の医療は、科学的根拠に基づく医療(エビデンス・ベイスド・メディシン、EBM)を重視して展開されてきたように思います。この医療は、検査の数値や医学文献によって科学的に確からしい根拠をもって治療にあたるという、実在論的な基盤に基づくものです。そうした現代医療の科学偏重に対する警鐘が、もう1つの疾病観である構築論に基づくナラティヴ・ベイスド・メディシンなのです。ナラティヴ研究の第一人者である宮坂道夫は、実在論と構築論に基づくヘルスケアを対比し、表2のようにまとめています2

表2 2つの疾病観に基づくヘルスケア
構築論・実在論の疾病観に基づくヘルスケアの比較表
(文献2より引用)

こちらもチェック
●全人的苦痛(トータルペイン)の評価方法は?【非がん患者への緩和ケア】

ナラティヴ・アプローチの看護への応用

 それでは、ナースは臨床現場において、どのようにナラティヴ・アプローチを展開していけばよいのでしょうか。

 表2に示されているように、ナースを含む医療従事者にとっての最大の行動目的は、患者の健康上の
問題解決を図ることです。そのためにナースは、患者の健康上の問題解決を図るために必要な情報源である、患者のナラティヴを聞く必要があります。

 構築論に基づくナラティヴ・アプローチでは、患者自身が自分の健康上の問題(疾病や障害など)をどう認識しているのかについて理解することが必要です。患者自身の話だけでは問題認識の理解が難しい場合には、家族等の関係者や、他の医療従事者から話を聞く必要もあるでしょう。つまり、ナースが行うナラティヴ・アプローチにおける中心的な実践は「他者の話を丁寧に聞くこと」になります5

「丁寧に話を聞くこと」の目的は?

 「患者の話を丁寧に聞くこと」は、学生時代に学び、また日常の臨床においても行っている、ナースにとってはごくあたりまえの行為と思われるかもしれません。しかし、改めて「患者の話を丁寧に聞く目的は何か?」と問われたとき、あなたはどのように答えるでしょうか。

 ナラティヴ・アプローチでは、患者本人が自らの健康問題をどのように認識しているかに基づき、患者の健康問題やその問題解決のための課題を設定します。そのためナラティヴ・アプローチに基づく「患者の話を丁寧に聞くこと」の目的は、患者自身が認識する自身の健康問題の手がかりを得るために行われるものと考えられます。したがって、ナースは単に「患者の話を聞く」のではなく、医療専門職として患者が自分の健康問題をどう認識しているのか、その手がかりを得るために話を聞くことが、ナラティヴ・アプローチの実践になるのです。

 患者がとらえる健康問題は、身体機能にかかわること(医学上の問題)や、生活機能にかかわること(生活上の問題)、また自らの人生史にかかわること(生死を含む人生に関わる問題)など多岐にわたります2。ナースは、患者が治療選択する場合に、身体機能にかかわる問題だけでなく、生活機能のことや、時には家族などとの関係性を考慮した人生史にかかわることをも含めて、悩みながら考えることを知っています。

 患者の話を丁寧に聞くことによって、患者が自身の健康問題をどのようにとらえているのかについて理解できれば、ナースは患者とともに健康問題の解決に向けた課題を設定することができます。このようなかかわりをすることで、ナースは患者本人の意向に沿ったケアを提供できるものと思われます。

1.野口裕二編:ナラティヴ・アプローチ.勁草書房,東京,2009.
2.宮坂道夫:対話と承認のケア ナラティヴが生み出す世界.医学書院,東京,2020.
3.野口裕二:物語としてのケア ナラティヴ・アプローチの世界へ.医学書院,東京,2002.
4.野口裕二:ナラティヴの臨床社会学.勁草書房,東京,2005.
5.宮坂道夫:ナラティヴと医療とのかかわり.理学療法ジャーナル 2024;58(2):214-218.

※この記事は『エキスパートナース』2025年7月号記事を再構成したものです。当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。