隠された疾患を見逃さないため、看護師にとって大切な「臨床推論」。今回は嘔気・嘔吐、両下肢の脱力・しびれを訴える事例の診断結果を紹介します。これまでのアセスメントから、考えられる疾患とは?

●「突然」発症したことを詳しく尋ねるには?
●両足麻痺から考えられるのは?
●急性大動脈解離を疑って注意するポイント
●急性大動脈解離は危険!ただちに診断を確定もしくは除外する
●急性大動脈解離は造影CTによる診断が第一選択
●急性大動脈解離の初発症状

今回の事例:「食後の嘔気・嘔吐」「両下肢の脱力・しびれ」で緊急搬送された男性

「突然」発症したことを詳しく尋ねるには?

 主訴は食後の嘔気・嘔吐に始まっています。しかし、食直後であることや、他の家族に症状が出ていないことは、細菌性食中毒や有害物質の摂食による可能性が低いことを示しています。

 この症例では、「ごちそうさま」と言ってお茶を飲んだ直後、つまり、まさしく「突然」発症したことは、重要なポイントです。胃潰瘍や十二指腸潰瘍であれば、比較的急に症状が出現することもありますが、本症例のように「突然」ということはあまりありません。

 この情報を聞き出すためには、発症に至るまでの状態から発症したときの状態を詳しく聞き出す必要があります。聞き方も工夫して、状況を頭のなかで想像しながら、「その後どうされましたか」といった具体的行動を聞き出します。

 発症のしかたを尋ねるときに、単に「急に起こったのですか?」という尋ね方をすると、救急外来に来る患者さんは多くの場合「はい、急に」と答えます。先々週まで異常なく過ごしていた患者さんが、1週間前から症状を自覚した場合でも「急に」と表現することもありますし、今朝起きたときから症状を自覚していた場合も「急に」と表現するかもしれません。これでは必要な情報を得たことにはなりません。前述のように、具体的に聞き出すようにしましょう。 

 また、嘔気・嘔吐は必ずしも消化器由来の症状とは限らないことも思い出してください。急性心筋梗塞の発症時に、頻度の高い随伴症状として嘔気・嘔吐がみられることは有名です。

両足麻痺から考えられるのは?

 前述の通り発症から時間が短いことや家族に症状がないことから、食中毒の可能性は低くなります。これに加えて、両下肢の麻痺も細菌性食中毒に合いません
 
 特殊な食中毒のシガテラ中毒(魚介類に蓄積された毒素によるもの)は同様の症状を起こすかもしれませんが、今回は食べたものが合いません。
 
 脳梗塞は、下肢の麻痺について鑑別が必要な疾患の1つです。嘔吐は、脳血管障害でもあり得ますし、「下肢麻痺」から想像されるのは、確かに脳血管障害であるかもしれません。発症早期の脳梗塞であれば、CTでは異常はみられません。救急搬送前に受診した医師も、脳血管障害を疑って頭部CTを撮影していますが、異常はみられませんでした。

 しかし、症状についてよく考えると、脳血管障害では説明できないことに気がつきます。患者さんは「両下肢」の麻痺・しびれを訴えているのです。脳梗塞の場合は通常、片側の上下肢麻痺などで発症することが多く、両側の下肢のみというのは脳梗塞では説明がつきません。その他の身体所見も、脳梗塞を肯定するには乏しいといえます。

急性大動脈解離を疑って注意するポイント

 急性大動脈解離の診断で、「これさえあれば」診断を確定できたり、逆に否定できたりする身体所見というものは存在しません。

 しかし、脈拍の消失は大動脈解離を示唆する重要な所見です。そして、皮膚が冷たく蒼白になっていれば、血流が障害されていることは容易に想像がつきます。下肢をきちんと見て、触れてみるというのが、ささいなことですが大事なことなのです。

 注意すべきことは、この脈拍の消失や血流障害の所見が動揺する場合があることです。つまり、解離によって生じたフラップ(解離した動脈による隔壁)が血流を障害しているときは症状や所見がありますが、フラップが動いて血流が再開すると、症状も所見も消失することがあります。このような場合でも、繰り返して診察することで所見が明らかになることもあります。

 当然のことですが、身体診察で得られた所見が診断の突破口になることはよくあります。

急性大動脈解離は危険!ただちに診断を確定もしくは除外する

 急性大動脈解離自体は、救急外来で頻度が高い疾患というわけではありません。しかも、本症例ではどこにも痛みを伴っていないため、典型的ではありません(大動脈解離の90%は痛みを伴い、強烈な痛みであることが多い)。

 つまり、比較的まれな疾患のまれな発症のしかたなので、最初から急性大動脈解離を想像することはないかもしれません。

 しかし、「突然の発症」という病歴と「脈拍の消失」などの身体所見を組み合わせることで、急性大動脈解離が浮かび上がりました。これは生命に直結する疾患であり、すみやかな対処が必要であることを考えると、真っ先に診断を確定、もしくは除外するべきものです。

急性大動脈解離は造影CTによる診断が第一選択

 急性大動脈解離を診断する画像検査としては、胸部X線写真経胸壁超音波検査経食道超音波検査造影CTMRIなどが挙げられます。

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