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在宅医療の現状を見すえつつ、さまざまな視点から活路を見いだす第6回日本在宅医療連合学会大会が開催

 2040年問題を前に控え、高齢化多死時代に向けて在宅医療はさらに重要視されています。しかし人的・経済的資源の観点から需要に対して供給が少ない状況にある事実や、在宅における医療行為の継続・看取り方などについて多くの困難さを抱えている現状があります。

 会員数4,500名を超え、在宅分野で日本最大の学術団体となった日本在宅医療連合学会(石垣泰則代表理事)が、7月20~21日に幕張メッセ(千葉県)で第6回となる学会大会を開催しました。

 同大会の抄録は、アプリケーションをダウンロードするシステムを採用し、会場内を移動する参加者の負担を軽減。また、企業の出店にとどまらずカフェの出店や参加型のワークプログラムなども多く企画され、学会としての特色が現れた大会となりました。

 今回の大会のテーマは「在宅医療を紡ぐ」で、大会ポスターにも組み紐が紡がれる様子が描かれています。荻野美恵子大会長は、「医療においてさまざまな要素が統合(integration)されて、はじめてよい成果がえられる」という考えから、このようなテーマが設定したとしています。

大会の電子ポスター。さまざまな糸が紡がれている。

大会サブテーマを表現した、幅広い職種が参加できる多様な講演

 大会のサブテーマとして「“幸” Well being(生活の質・人生の質(QOL)の向上)」「“働” Collaborative decision making (協働意思決定)」「“含” Inclusion of diverse values (多様な価値観の包含)」「“継” sustainability (持続可能性)」「“繋” interdisciplinary team collaboration (多職種連携)」「“楽” enjoy your life(快)」が設定され、同大会ではこれらを意識した企画の構成がなされていました。
 
 直接的に「Well being」をテーマに掲げた講演や、周囲の人と話し合う時間を設けた講演、多職種連携をテーマに多様な職種が参加する講演など、サブテーマに違わず職種・分野の参加に偏りのない大会内容でした。

 次回大会は、2025年6月14日(土)、15日(日)に長崎で開催予定です。

次回大会のポスター。講演の前後で映像の告知もなされていた。

○大会概要
学会名:第6回日本在宅医療連合学会大会
テーマ:在宅医療を紡ぐ
会期:2024年7月20日(土)~21日(日)
会場:幕張メッセ
会長:荻野美恵子(国際医療福祉大学医学部医学教育統括センター副センター長・教授、国際医療福祉大学市川病院神経難病センター)

○学会情報
一般社団法人 日本在宅医療連合学会
HP:https://www.jahcm.org/

地域看護の最新情報が集結、日本地域看護学会第27回学術集会が開催

 2024年6月29~30日に、日本地域看護学会第27回学術集会が宮城県にて開催されました。日本地域看護学会は1997年に発足し、地域看護の学術的発展と教育・実践の向上のために活動しています。

 同学術集会のテーマは「地域看護のソーシャルイノベーション ―地域社会の包容力を高める看護の挑戦―」。年齢や障害を問わず社会参加を可能にし、少子高齢化や過疎化の地域課題の克服に挑む社会の変革(ソーシャルイノベーション)を通じて、誰もが希望を持てる社会、世代を超えて互いに尊重しあえる社会、1人ひとりが快適に活躍できる社会の実現をめざす、といった考えのもとつけられました。

地域連携から他領域との合同セミナーまで、未来を見据えた講演が多く行われる

 30日(土)には、同学術集会長(大森純子学術集会長)による会長講演「地域看護のソーシャルイノベーション-地域社会の包容力を高める看護の挑戦-」が開催されました。

 講演では、国家間のボーダーレス化が進んでいる今こそ、地域看護の新機軸や新たな価値などについて未来志向で議論する必要があるといった、地域看護の展望が示されました。その後、議論の手がかりとして、地域看護がめざすコミュニティ像などの情報提供が行われました。

 そのほかの講演では、地域住民が気軽に集まれる居場所を提供することで、地域のつながりの再構築をめざした事例の紹介や、疫学研究やAI情報科学(遠隔診療システムや栄養管理システムなど)といった他領域と地域看護との共同セミナーなど、地域・他領域・多職種との連携に重きをおいた発表も活発に行われました。

○学術集会概要
学会名:日本地域看護学会第27回学術集会
テーマ:地域看護のソーシャルイノベーション ―地域社会の包容力を高める看護の挑戦―
会期:2024年6月29日(土)・30日(日)(オンデマンド配信:8月31日まで)
会場:AER(アエル)
学術集会長:大森純子(東北大学大学院医学系研究科 教授)
副学術集会長:浦山美輪(東北大学病院 副院長・看護部長)

○学会情報
一般社団法人 日本地域看護学会
HP:https://www.jachn.net/index.html

【抽選プレゼントつき】上品でやわらかな印象の男女兼用のジップスクラブ®が発売 ストレッチ素材で着心地も快適に

 フォーク株式会社より、ラウンドネックがやさしく上品でやわらかな印象のスクラブ、ジップスクラブ®が発売されました。細く控えめな配色の切り替えがスタイリッシュさを演出し、男女問わず着用することが可能です。
 袖口を折り返すと配色により色が変わるため、おしゃれのポイントとなるほか、日勤・夜勤などの区別にも活用できます。腰ポケットは玉縁ポケット*になっていて、洗練されたデザインとなっています。
 ストレッチ素材を使用し、快適な着心地のスクラブです。

*【玉縁ポケット】ポケットの縁を別に裁断した布で処理したもの。

 ※画像はミディアムブルー

ジップスクラブ®(型番:7100SC)
カラー:ホワイト、ミディアムブルー、バーガンディ、ダークネイビー
サイズ:S/M/L/LL

問い合わせ先:フォーク株式会社 
TEL:0120-409-414(平日9:00~17:30、土・日・祝日を除く) 
https://www.folk.co.jp/

本アイテムを3名様にプレゼントします。応募の際に色・サイズをお選びください。
以下からご応募ください。
https://questant.jp/q/expertnurse2408_enweb_present
締め切り:2024年8月20日(火)23:59まで 
※当選者の発表は商品の発送をもって代えさせていただきます。

新規*エキスパートナースモニター募集!

エキスパートナース編集部では「エキナスモニター」として
雑誌やweb制作にご協力いただける方を募集しています。ぜひお気軽にご応募ください!

応募資格※よくお読みいただいてからご応募ください
*看護師または准看護師の方
*エキナスモニターとして、メールでお知らせするWEBアンケートに答えることが可能な方
*座談会、Zoom座談会に参加できる方(こちらは希望者のみ。参加者には別途謝礼あり)
*過去にエキナスモニターに採用されたことがある方の再応募はご遠慮ください

応募方法
下記サイトより必要事項をご記入のうえ、お申し込みください(PC、スマートフォン対応)
https://questant.jp/q/expertnurse_monitor_2024

応募締め切り
2024年8月30日(金)23:59

* エキナスモニターに採用となった方のみ、別途メールにてご連絡いたします。
(採用されなかった方へのご連絡を差し上げておりません。何卒ご容赦いただけますと幸いです)

メインと側管からの点滴は、同時に落としていいの?片方ずつがいいの?(側管が多ければメインが止まる時間が長くなるので)

 この春に発売された新刊書籍『急性期病院の看護師1200人の?から生まれた 看護のギモン』(西口幸雄、久保健太郎 編著、照林社発行)は、臨床看護師へのアンケートで集まったリアルな疑問に、各領域の専門職が知見やエビデンスをもとに回答。カテーテル・ドレーン、薬剤、呼吸管理、急変対応など、18テーマ・155項目をのことがわかる「看護のためのQ&A事典」です。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました。ぜひ、この機会に読んでみてください!

薬剤のギモン

 当院の看護師およそ1200名に“看護に関する疑問”を募ったところ、薬剤に関する疑問がダントツで多かったです。
 看護師は薬剤の最終投与者になることが多く、薬の効果や副作用の観察をする役割も求められています。そのため看護師にとって薬の知識は必要不可欠といえます。
 与薬の間違いは患者さんへの影響も大きいため、ここで少しでも疑問を解消しておきましょう。
(久保健太郎)

メインと側管からの点滴は、同時に落としていいの?片方ずつがいいの?(側管が多ければメインが止まる時間が長くなるので)

答える人
薬剤師 佐々木 剛
●一定の速度で正確な投与が必要でなく、配合変化が起こらない薬剤は同時投与可能です。

 注射薬は、基本は単独で安定性が維持できるように製剤設計されていますが、実際の臨床の現場においては、ルート確保の問題や投与時間の短縮などで多剤を混合して使用する場合が多いです。

ルートがない場合は、同時投与せざるを得ない場合も

 流量変化などで投与量に影響を受けやすいカテコラミンインスリン、麻薬類、pHの違いなどで混合すると白濁や結晶を形成する薬剤、乳化剤など配合禁忌のある薬剤は、メインのルートの薬剤は止めて、フラッシュ後に単独投与する必要があります。

 TPN(中心静脈栄養法)患者でよく使用されるイントラリポス®は、基本は単独ルートでの投与となっていますが、治療薬が混合されていない栄養輸液の側管から同時投与可能です。イントラリポス®は投与速度が重要で、決まった投与速度以上で投与すると、さまざまな影響が出ます。投与に時間がかかりますが、メインの栄養輸液を止めると投与カロリーに大きく影響するため、同時投与できる投与設
計とすることが望ましいです。

 流量変化に伴う薬効変化があるカテコラミンインスリン、配合変化上どうしても単独ルートでの投与の薬剤は同時投与不可ですが(複数の内腔をもつ中心静脈ルートを除く)、麻薬については、管理上の理由で原則単独ルートでの投与となっていますが、微量の持続投与のため、ルート閉塞予防や投与ルートがないなどの問題で側管から同時投与する場合もあります。

 アンペック®注(モルヒネ塩酸塩)は比較的配合変化は少ないといわれていますが、フェンタニル注射液(フェンタニルクエン酸塩)はアルカリ性の薬剤との混合で失活し、効果が減弱する可能性があります。また濃度によっても配合変化か変わり、配合変化のデータも限られているため、同時投与の場合は、白濁や析出など異常がないか注意して観察する必要はあるでしょう。
 迷ったときは薬剤師に相談してください。

その他のギモンは書籍で!

急性期病院の看護師1200人の?から生まれた 看護のギモン
西口幸雄、久保健太郎 編著
A5・352ページ・定価2,970円(税込)
照林社

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。

薬剤を生食100mLなどで溶解するときと、ショットでいく場合があるのはなぜ?添付文書に「溶解」と書いていないものでも溶解することが多いけれど、よいの?

 この春に発売された新刊書籍『急性期病院の看護師1200人の?から生まれた 看護のギモン』(西口幸雄、久保健太郎 編著、照林社発行)は、臨床看護師へのアンケートで集まったリアルな疑問に、各領域の専門職が知見やエビデンスをもとに回答。カテーテル・ドレーン、薬剤、呼吸管理、急変対応など、18テーマ・155項目をのことがわかる「看護のためのQ&A事典」です。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました。ぜひ、この機会に読んでみてください!

薬剤のギモン

 当院の看護師およそ1200名に“看護に関する疑問”を募ったところ、薬剤に関する疑問がダントツで多かったです。
 看護師は薬剤の最終投与者になることが多く、薬の効果や副作用の観察をする役割も求められています。そのため看護師にとって薬の知識は必要不可欠といえます。
 与薬の間違いは患者さんへの影響も大きいため、ここで少しでも疑問を解消しておきましょう。
(久保健太郎)

薬剤を生食100mLなどで溶解するときと、ショットでいく場合があるのはなぜ?添付文書に「溶解」と書いていないものでも溶解することが多いけれど、よいの?

答える人
薬剤師 井口勝弘
●水分量を減らしたい場合や小さい子供などの長時間じっとできない患者さんであれば、点滴静注よりも静脈内注射(いわゆるショット)が適しています。

 添付文書の「用法及び用量」の項目に「静脈内注射又は点滴静注する」と記載のある薬剤について、メーカーからの回答では、静脈内注射でも「緩徐に」と記載のある場合もあり、そのときは2~3分程度で、「極めて緩徐」には5分程度かけての投与が一般的とされています。
 
 同じ薬剤でも投与方法が静注や筋注、皮下注などの違いによって、溶解液そのものや溶解量が変わってくる場合があります。等張とならないため溶解液に注射用水を用いない薬剤や、組織・神経などへの影響を避けるために注射用水を使用する薬剤もあるので、注意が必要です。

 また、溶解液は添付されてはいませんが溶解量が決められている薬剤や、塩析を避けるためにいったん注射用水で溶解後に指定の輸液で希釈して投与する、というように2段階希釈が必要な薬剤もあります。

 シリンジポンプを利用して、微量の薬液を一定の速度で長時間にわたって正確に投与する必要がある薬剤は、希釈して使用します。

その他のギモンは書籍で!

急性期病院の看護師1200人の?から生まれた 看護のギモン
西口幸雄、久保健太郎 編著
A5・352ページ・定価2,970円(税込)
照林社

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補助循環の「プラス要素とマイナス要素」をおさえる

 『ICUナースが書いた 補助循環の管理がもっとできるようになる本』は、ICUで「おさえておくべき必須テーマ」をていねいに、わかりやすく解説した新シリーズの1冊目。補助循環管理を行っている患者さんを受け持つときにICUのエキスパートナースが、何を、どうみて、動いているのかがわかります。

 今回は特別に、試し読み記事を公開します。ぜひチェックしてみてください!
 第2回は、アセスメントのポイントについてです。

患者にとって「何がプラス/マイナスなのか」は、補助循環の目的から判断する

 補助循環管理の導入時期も、軌道に乗っている時期も、補助循環の目的である血流の安定化全身の酸素化を維持していくことが重要です。臨床では、この2つの目的を阻害する「マイナス要素」を早期に排除し、可能な限り「プラス要素」となるケア介入を行うことが求められます。

 マイナス要素の多い状況にある場合、プラスの要素を見つけ出して状況改善に取り組むといった微妙なさじ加減も重要です。予測して防ぎ得るリスクも多いですが、侵襲的治療や管理を継続するうえでは、対症療法的にそのつど対応策を講じなければならないことも少なくありません。そのような臨機応変な対応を行うためには、以下の3つに分けて考えていくのがポイントとなります。

 では、補助循環管理を継続していてよくみる「貧血の進行(血清Hb値の低下)」という症状を例に挙げ、❶~❸の視点で考えてみましょう【表1】

 しかし、【表1】からもわかるように、なかなか「マイナス要素」と「プラス要素」を振り分けて考えづらいのが臨床の難しいところです。病態や治療、補助循環管理に伴うことが複雑に関係してい
ることを考慮しながら、方向性を考えなければなりません。
 患者は、これらの病態すなわち身体的レベルの変化に加え、精神・心理・社会的レベルの変化を生じるため、心身の両面をみつつ治療・看護ケアを具体化していくことも、非常に重要な視点となります。全人的な看護の重要性が問われることが、よくわかるでしょう。
 次頁からは、「補助循環管理中、血圧が低下した」場合について一緒に考えていくことにします。

「循環管理に視点を置いたアセスメント」を行うのが大前提

 補助循環管理を行っている患者の血圧が低下した場合、まずは循環管理の視点を軸に、身体面で起こっている出来事に対して、以下のような流れで思考を展開していきます。

 しかし、補助循環管理中には、上記の視点だけでは解決策が見当たらない状況にも、しばしば直面します。
 血圧低下が生じ、迅速・的確に対応しても、病態の深刻さによっては思ったとおりに改善しない場合もあります。その結果、脳の低酸素・低循環や、せん妄・高度の不穏が生じることも少なくありません。その状況が持続すると、さらに循環・呼吸にも影響が及びかねません。本来であれば、鎮痛・鎮静薬などの薬理学的介入も検討しますが、循環動態が不安定だと、なかなか使用・増量しにくいのも事実です。
 このような場合、全人的な視点で患者を看る―患者の届けられぬ声を拾い上げる―べきだと私は考えます。

補助循環管理中の不穏・せん妄のケアも考える

 ここで、状態のよくない補助循環管理中の患者にときどき出現する不穏・せん妄についても考えてみましょう。
 補助循環管理を行っているときにせん妄・不穏をきたした患者は、もしかしたら、以下のような状況にあるのかもしれません。

 もちろん、上記を訴えた患者が、病態に合併する脳機能不全に陥っている可能性もあります。しかし、病気や身体の側面も看みながら、それ以外の側面のリスクに気づき、適切なケアを実践することが肝要だと私は考えています。

 ICUという特殊な療養環境下であっても、患者を全人的にとらえ、かかわっていくためには、日々の業務の忙しさに忙殺されないように立ち止まり、考えていくことが重要だと私は考えます。

ICUナースが書いた 補助循環の管理がもっとできるようになる本
齋藤大輔 著、山下 淳 医学監修
B5・128ページ・定価 2,420円(税込)
照林社

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補助循環管理を行う患者と家族には、どう接する?

 『ICUナースが書いた 補助循環の管理がもっとできるようになる本』は、ICUで「おさえておくべき必須テーマ」をていねいに、わかりやすく解説した新シリーズの1冊目。補助循環管理を行っている患者さんを受け持つときにICUのエキスパートナースが、何を、どうみて、動いているのかがわかります。

 今回は特別に、試し読み記事を公開します。ぜひチェックしてみてください!
 第1回は、補助循環管理における看護師の役割についてです。

補助循環管理を行う患者と家族には、どう接する?

 補助循環管理に関する成書の多くは、治療や機械的な管理に焦点が注がれています。
しかし、臨床で看護を提供するうえで重要なのは、補助循環管理を行っている患者は「生と死の狭間におかれている」ということです。この事実にどのように向き合うべきか、そして、そのなかで複雑に生じうる倫理的な側面にも注目しながら看護を実践していかなければなりません。

補助循環管理が必要な患者と家族は複雑な心境を抱えている

 補助循環管理を行う患者やその家族*が見つめるかもしれない世界観のイメージを【図1】にまとめました。「すべてこのとおり」になるわけではありませんが、患者と家族は、生と死の狭間複雑な思いを抱えることを、まずは理解することが大切です。
*最近では、「家族」は「血縁関係だけ」という解釈ではなくなってきています。

特に注意が必要なのは「回復困難な状態に陥った場合」の対応

 治療によって身体的な回復がみられた場合、その喜びにより、患者や家族の複雑な心理状況も、時間が解決してくれる可能性が高いです。
 しかし、回復困難な状態に陥った場合、特に注意が必要です。治療が奏効しないことへの悲しみや、それまで抱いていた医療への期待が、容易に違う心情の形(怒りなど)に変化しうるからです。患者や家族の傾向を理解して信頼関係を構築し、真のニーズを明らかにし、支援していくことが重要です。患者や家族の将来までを支援するのは難しくても、将来をよりよいものにするきっかけづくりはできるはずです。急性期看護実践では、この視点を必ず念頭に置くべきだと考えます。

「頭で理解できても、心では理解できない」状態だと理解する

補助循環管理の合併症によって救命困難になる場合もある

 残念ながら、心筋細胞の障害が不可逆的な場合、病態が深刻であればあるほど、救命できない確率や、救命できても大きな障害(心不全)が残る確率が、非常に高いのが現実です。
 救命治療によって心臓がよい方向に改善してきた場合でも、補助循環管理自体の侵襲性の高さから、合併症により救命困難になるケースもあります。一見、臨床状況が安定していても、さまざまな合併症が起こる可能性があります。出血や脳梗塞などが起こり、患者の状態が容易に悪化する可能性があります。

患者と家族は心理的危機状態にあることを理解してかかわる

 患者と家族が、刻々と変化する身体状況(複雑な生体反応や治療の状況、治療上の潜在的なリスク)を適切に把握するのは容易ではありません。心理的危機に直面し、「頭で理解できても、心では理解できない」といった心情に苛(さいな)まれることも考えられます。
 初期(病気の発症や補助循環管理の導入など)の臨床場面で、今の状況を受け入れる(受容する)方もいますが、「心身状態の紆余曲折」を経験する方が多いと思います。

 このようなときの心理的な反応は、個人・家族内での関係性、生活背景・個人史、将来への希望、健康への価値観・信念などによって異なります。患者と家族は、どのような世界観から現状を見ているのか、今の困難を乗り越えるためにはどのような具体的な支援を必要としているのか、病状的に許される時間的猶予を看護者がアセスメントしながら、信頼関係を構築しつつ段階的にどのように支援すべきかなど、各所のニーズにきめ細かく寄り添える看護が必要になります。

ICUでも「患者は全人的な存在」という前提をもってかかわる

 補助循環管理を行っている患者のベッド周囲には、たくさんの医療機器・薬剤・モニターがあり、管理・準備・診療の補助とやることがてんこ盛り…これが臨床のリアルです。特に、救命・集中治療は一刻一秒を争うことも多く、どうしても身体面に関することに注目しがちですが、「患者は全人的な存在」という前提を忘れてはなりません。
 患者個々のニーズを満たす適切な医療・ケアを実施するためには、急性期でも全人的苦痛(トータルペイン)が生じうる、と考えるべきです。
 例えば、心筋梗塞患者の主観的体験に基づくニーズとしては、以下の要素が考えられます。

 ICUという特殊な療養環境下であっても、患者を全人的にとらえ、かかわっていくためには、日々の業務の忙しさに忙殺されないように立ち止まり、考えていくことが重要だと私は考えます。

現状だけでなく「少し先の予後」までアセスメントする

 よりよい看護を行うためには、迅速・適切な思考のフレームワーク(思考の枠組み)を身につけることも重要です。病気を理解するためには、病態・治療はもちろん、治療によるよい反応、病態悪化によるよくない反応を把握し、中長期予後を見きわめるアセスメント力が必要です。

 また、病気を理解するだけでは、揺れ動く患者と家族の心身を支援できません。どのように患者の病態・治療などの全体像をアセスメントしていくべきか、病気だけでなく「病気になっている人」や、患者を支える家族などにも注目し、最良の看護をチームで実践していくことが重要です。
 看護実践の多くは、勤務帯や担当制などにより、輪番で担当します。だからこそ、チームで共有できる情報や、標準的な思考過程(とらえ方)を基盤に、緻密な継続看護を実践していくことが求められます。

ICUナースが書いた 補助循環の管理がもっとできるようになる本
齋藤大輔 著、山下 淳 医学監修
B5・128ページ・定価 2,420円(税込)
照林社

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。

看護の発展に取り組む日本看護協会の2024年度記者会見が開催

 日本看護協会では、看護におけるさまざまな問題・課題の解決に向けて取り組みを進めています。2024年6月26日には、日本看護協会の2024年度記者会見が開催されました。

 冒頭では、高橋弘枝会長があいさつ。令和6年能登半島地震において延べ2,982名の災害支援ナースが派遣されたことについて、引き続き全国の看護協会と連携していきたい旨を述べました。
 また昨年、約30年ぶりに『看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な方針』が改定されたことにも言及。いきいきと働ける環境を整え、看護職の量と質の確保に取り組んでいくと語りました。

あいさつを述べる高橋弘枝会長

重点政策・重点事業について説明、働き方や賃金に関する質疑応答も

 続いて、新役員の勝又浜子副会長、松本珠実常任理事、橋本美穂常任理事を含めた新執行部があいさつをしたのちに、2024年度の重点政策・重点事業が説明されました。

 重点政策は「全世代の健康を支える看護機能の強化」「専門職としてのキャリア継続の支援」「地域における健康と療養を支える看護職の裁量発揮」「地域の健康危機管理体制の構築」の4つ。それぞれについて、全11の事業を引き続き進めていくとのことです。
 2025年に向けて取り組んでいる「看護の将来ビジョン」については、これまでの総括をしながら、2040年に向けた新たなビジョンの策定を進めるといいます。

 最後は質疑応答・意見交換の時間。参加者からは、ナースセンターが実施する看護補助者対象の研修の詳細、看護DXの具体的な内容、看護の専門性の発揮に資するタスク・シフト/シェアの方針、夜勤・交代制のあり方などについて、質問や意見が寄せられました。
 「日本看護協会がめざす看護職の賃金の水準は?」という質問には、キャリアに応じて賃金がアップしていくよう取り組んでいきたい、との考えが示されました。

新執行部による記者会見の様子

○2024年度 記者会見概要
日時:2024年6月26日(水)14:00~15:00
会場:日本看護協会 JNAホール

○記者会見情報
公益社団法人 日本看護協会
HP:http://www.nurse.or.jp/

2100年までに97%の国地域で人口維持が不可能に

合計特殊出生率の世界的な低下が続くと予測

 ワシントン大学などの国際チームは3月20日、論文を公開し、1人の女性が15~49歳の年齢別出生率で一生の間に産むと仮定したときの子どもの数である「合計特殊出生率」が世界的に低下を続けるとの予測を発表しました¹。

 世界の年間出生数は、2016年の1億4,200万人をピークに、2021年には1億2,900万人まで減少しています。また合計特殊出生率は、1950年以降すべての国と地域で低下傾向にあります。

 予測によると、合計特殊出生率2.1程度とされる人口置換水準(人口が増加も減少もしない均衡した状態となる合計特殊出生率のこと)を上回る国や地域は、2050年には49か国、2100年には6か国のみとなります。6か国のうち3か国は、世界銀行により2021年に低所得国と定められた国です。合計特殊出生率の変化は、高所得国における高齢化と労働力の減少に加え、すでに貧しい地域での出産割合の増加を意味し、経済的・社会的に広範囲に影響を及ぼすと考えられています。

 同チームは、教育と避妊の必要性に関するSDGs目標を達成し、出産促進政策を実施することで若干の合計特殊出生率の改善が見込まれるとしています。

1.GBD 2021 Fertility and Forecasting Collaborators:Global fertility in 204 countries and territories, 1950–2021, with forecasts to 2100: a comprehensive demographic analysis for
the Global Burden of Disease Study 2021.
https://www.thelancet.com/action/showPdf?pii=S0140-6736%2824%2900550-6(2024.4.20アクセス)


「子ども睡眠健診」プロジェクトの中間報告が発表

おおむね半数以上の小中高生が睡眠時間不足と明らかに

 理化学研究所生命機能科学研究センターの研究チームは3月18日、「子ども睡眠健診」プロジェクトの中間報告を行いました¹。同プロジェクトでは、腕時計型のウェアラブルデバイスを用いて子どもたちの睡眠の量・質・リズムを測定し、研究を進めています。

 中間報告では、約7,700名の小中高生のデータの解析結果が公表されました。解析により、すべての年代において、おおむね半分以上の子どもたちが厚生労働省内の検討会により策定された『健康づくりのための睡眠ガイド2023』²における推奨睡眠時間(小学生は9~12時間、中学・高校生は8~10時間)を満たしておらず、平日に睡眠不足が蓄積し、休日に睡眠補填を行っていることが明らかになりました。

 同研究チームは、こうした実態を改善するために、「子どもたちが自身の睡眠状況を客観的に振り返り、睡眠や生活習慣を整える重要性を認識し、睡眠を改善するための正しい知識を獲得することが重要」であるとしています¹。

1.理化学研究所ホームページ:「子ども睡眠健診」プロジェクトで見えてきた実態-プロジェクト参加校(小・中・高)の第三次(2024年度後期)募集を開始-.
https://www.riken.jp/pr/news/2024/20240318_1/index.html(2024.4.20アクセス)
2.健康づくりのための睡眠指針の改訂に関する検討会:健康づくりのための睡眠ガイド2023.
https://www.mhlw.go.jp/content/001237245.pdf(2024.4.20アクセス)

嚥下困難者用食品の表示が許可された栄養補助食品が発売

飲み込みにくいと感じる患者さんの栄養補給のポートに

 森永乳業クリニコ株式会社では、2月1日に消費者庁から「特別用途食品 えん下困難者用食品 許可基準Ⅰ」の表示許可を受けた、『ビタミンサポートゼリー』を発売中です。

 同製品は付着性が低いため、食事を飲み込みにくいと感じる人でも食べやすく、ビタミンC・鉄・亜鉛・カルシウムなどの栄養素が補給できるゼリーです。また、数千個の菌株の中から選ばれた、健康をサポートする乳酸菌、「シールド乳酸菌®」を配合しています。

 「特別用途食品 えん下困難者用食品」には3種類の許可基準区分があり、今回表示が許可された「許可基準Ⅰ」はそのまま飲み込める性状のもの(均質なゼリー状のもの)が分類されます。栄養が不足しがちな高齢者や、嚥下機能が低下している人に適したゼリーです。

ビタミンサポートゼリー
●ラインナップ:みかん味、マスカット味、パイナップル味、はちみつレモン味
●容量:78g(1個あたり)
●賞味期限:7か月(製造日より)
●価格:24個入り 4,665円(税込)

問い合わせ先

森永乳業クリニコ株式会社
TEL:0120-52-0050
(受付時間:平日 9:30~17:00、土・日・祝日、年末年始、5/1 を除く)
URL:https://www.clinico.co.jp

障害者差別解消法の医療関係事業者向けガイドラインが改正

医療分野における障害者への「合理的配慮」等について解説

 4月1日に「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律の一部を改正する法律」(以下、改正障害者差別解消法)が施行されました。これに先立ち、厚生労働省では3月30日に、『障害者差別解消法 医療関係事業者向けガイドライン~医療分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針~』の改正を行いました¹。

 改正障害者差別解消法では、これまで努力義務であった、事業者による障害のある人への合理的配慮の提供が義務化されました。

 同ガイドラインでは、医療機関における障害を理由とする不当な差別的取り扱いおよび合理的配慮の基本的な考え方や、それらの例などを記載しています。合理的配慮の提供にあたっては、個々の障害特性等をアセスメントし、個別の支援計画(看護計画等)に位置づけるなどの取り組みも望まれています¹。

合理的配慮に該当すると考えられる例

●エレベーターがない施設の上下階に移動する際、マンパワーで移動をサポートすること
●身振り、手話、要約筆記、筆談、図解、ふりがなつき文書を使用するなど、本人が希望する方法でわかりやすい説明を行うこと
●外見上、障害者であるとわかりづらい患者(聴覚障害の方など)の受付票にその旨がわかる連絡カードを添付するなど、プライバシーに配慮しつつスタッフ間の連絡体制を工夫すること

(引用文献1を参考に作成)

1.厚生労働省:障害者差別解消法 医療関係事業者向けガイドライン~医療分野における事業者が講ずべき障害を理由とする差別を解消するための措置に関する対応指針~.
https://www.mhlw.go.jp/content/10800000/001239118.pdf(2024.4.20アクセス)
2.内閣府:リーフレット「令和6年4月1日から合理的配慮の提供が義務化されます!」.
https://www8.cao.go.jp/shougai/suishin/pdf/gouriteki_hairyo2/print.pdf(2024.4.20アクセス)

『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』が公開

飲酒による疾病発症リスクが示される

 厚生労働省は2月19日、飲酒による身体への影響や過度な飲酒による疾病別の発生リスクなどをまとめた『健康に配慮した飲酒に関するガイドライン』を公開しました¹。ガイドライン作成の背景として、アルコール健康障害対策基本法に基づいて策定された「アルコール健康障害対策推進基本計画(第2期)」に「飲酒ガイドラインの作成」が示されていることがあります。

 年齢、性別、体質などによる飲酒による影響の違いや飲酒量の把握のしかたなどが示され、飲酒や飲酒後の行動・判断に役立つものをめざすとしています。

 ガイドラインでは、個々人の疾患発症リスクに着目し、1日20gの純アルコール(男女共通)を摂取すると大腸がんの発症リスクが上昇すると考えられるなど、たとえ少量であっても飲酒することで発症リスクを上げてしまう疾病をまとめています。また、「あらかじめ量を決めて飲酒する」「1週間のうち、飲酒しない日を設ける」などの「健康に配慮した飲酒の仕方について」が示されています。

健康に配慮した飲酒のしかたについて(文献1を参考に作成)

1.自らの飲酒状況等を把握する
2.あらかじめ量を決めて飲酒する
3.飲酒前または飲酒中に食事をとる
4. 飲酒の合間に水(または炭酸水)を飲むなど、アルコールをゆっくり分解・吸収できるようにする
5.1週間のうち、飲酒しない日を設ける

※純アルコール量20gは、ビール中びん1本(500g)、日本酒1合(180mL)、缶チューハイロング缶1缶(500mL)相当に該当する²。

1.厚生労働省:別添 健康に配慮した飲酒に関するガイドライン.
https://www.mhlw.go.jp/content/12200000/001211974.pdf(2024.3.20アクセス)
2.アルコール健康医学協会ホームページ:お酒と健康 飲酒の基礎知識.
https://www.arukenkyo.or.jp/health/base/index.html(2024.3.20アクセス)

『健康・医療分野におけるビッグデータに関する提言』が示される

情報インフラや電子カルテ機能などの見直しを求める

 日本医学会連合は2月5日、『健康・医療分野におけるビッグデータに関する提言』を公表しました¹。これは「日本の健康・医療分野におけるデータ活用環境を健全なものとし、すでに日本が突入した人口減少に向かう超少子高齢社会時代に質の高い医療を効率良く提供し、また健康・医療DX 時代における国際競争に日本が勝ち抜く基盤を構築すること」を目的として取りまとめたものです。

 提言によると、2020年度の電子カルテの導入率は医療現場全体で50%程度である一方で、2022年度のレセプト電算*化率は医科・歯科・調剤すべてで90%を超えており、導入が進んでいる現状があるとしています¹。

 このような「まだらデジタル化」の他にも、スマートフォンの普及に伴うIoT機器の活用増加や、海外でのビッグデータ活用事例なども挙げ、日本をとりまくビッグデータの現状を統括したうえで、ビッグデータの生成や活用の「あるべき姿」に重点を置いた4つの提言を示しています。

健康・医療分野におけるビッグデータに関する提言

1. 平時にも有事にも機能する個人を中心とした健康・医療情報インフラの早期実現
 【提言先:内閣府】
2.電子カルテ機能の抜本的見直しと標準化
 【提言先:厚生労働省、経済産業省】
3. 個人情報に関する健康・医療分野個別法「健康・医療情報利活用法」の制定
 【提言先:個人情報保護委員会、法務省、文部科学省、厚生労働省】
4.データ利活用促進のための人材育成
 【提言先:文部科学省、厚生労働省】

(文献1を参考に作成)

*【レセプト電算】保険医療機関や保険薬局が、電子レセプト(医療機関が保険者に提出する月ごとの診療報酬明細書)をオンライン・電子媒体で審査支払機関に提出し、同機関から保険者に明細書を送れるシステム。

1.日本医学会連合:健康・医療分野におけるビッグデータに関する提言.
https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2024/02/20240206154728.pdf(2024.3.20アクセス)

透析医療についての最新情報・知識収集の場、第69回日本透析医学会学術集会・総会が開催

 2020~2021年ころから慢性透析患者総数の増加傾向の鈍化、人口100万人あたりの透析患者有病率の減少などがみられていますが、世界的規模から日本での透析患者が多い事実は変わりません。しかしそのようななかで、透析治療において優秀な生存率を確立しているのは、透析医療者による功績にほかなりません。

 2024年6月7~9日に、第69回日本透析医学会学術集会・総会が神奈川県にて開催されました。日本透析医学会(武本佳昭理事長)は1968年に人工透析研究会として発足し、透析療法を中心とした血液浄化療法に関する学術の発展に寄与することを目的として活動しています。

 同学術集会のテーマは「前進 腎代替療法 ~次世代のinterprofessional academismを目指して~」。「interprofessional academism」=「チーム医療の叡智」の意で、医療チームが在宅透析や施設透析、腎移植のすべてを通して腎代替医療の担い手となり、腎臓病を抱える患者さんへの医療を生涯通じて支えるべき、といった考えのもとつけられました。

最先端の治療から緩和治療まで、透析医療の議題は多岐にわたる

 講演・ポスター展示ともに非常に多くの発表がなされ、最先端の治療やケアに関すること、次世代を見すえた課題への取り組みについても多くの講演で取り上げられていました。

 8日(土)には、日本腎不全看護学会と日本透析医学会の合同企画シンポジウム「Successful aging/terminal stageを目指した腎不全看護」が開催され、高齢患者にスポットを当て、「患者のもてる力の支援」「意思決定支援」「ターミナルステージでの支援」などについて各演者の経験を交えた発表が行われました。
 ほか講演でも、現代におけるACP(アドバンス・ケア・プランニング)やCKM(保存的腎臓療法)、緩和的透析といった患者の終末期を意識した内容を含んだ発表・質疑も活発に行われ、熱心に聞き入る参加者の姿も多く見られました。。

 次回、第70回日本透析医学会学術集会・総会は、2025年6月26日(木)~29日(日)に大阪にて開催予定です(※6月26日は、理事会、総会<評議員のみ出席>)。

講演会場を行き来する、多くの参加者。
会場に設定されたフォトスポット。参加者らが自由に撮影できる。

○学術集会概要
学会名:第69回日本透析学会学術集会・総会
テーマ:前進 腎代替療法 ~次世代のinterprofessional academismを目指して~
会期:2024年6月7日(金)~9日(日)
会場:パシフィコ横浜
会長:酒井 謙(東邦大学医学部腎臓学講座 教授)

○学会情報
一般社団法人 日本透析医学会
HP:https://www.jsdt.or.jp/

人工呼吸器装着中の搬送途中に酸素ボンベが空になった!どうする!?

 この春に発売された新刊書籍『看護のピンチ』(道又元裕編集、照林社発行)は、現場でよく見られるピンチの場面を振り返って、何をどうすればトラブルを防ぐことができたのか、予見と防止のポイントと鉄則を示した1冊です。これから看護業務が本格化していく新人ナースに、久々に病棟復帰した方に、すぐに役立つ内容になっています。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました!全5本の記事を順次公開していきますので、ぜひ、この機会に読んでみてください!

 今回のピンチは…人工呼吸器装着中の搬送途中に酸素ボンベが空になった!

 入院中の患者さんを、検査や手術、転棟などにより、搬送することは日常的に行われています。搬送中に起こりうるトラブルの1つに、酸素ボンベの残量がなくなり、患者さんに酸素投与ができなくなるということがあります。そのような事態を防ぐためには十分な準備が必要です。

起こった状況

 患者Aさん。手術翌日に挿管管理のままCT撮影のため、3階の病棟から1階のCT室へ搬送することになりました。受け持ち看護師は搬送の準備をして、医師がジャクソンリースを用いて搬送を行いました。CT撮影後、CT室から病棟へ搬送している途中、ジャクソンリースが膨らまなくなり、AさんのSpO2が低下し始めました。看護師はどうしたらよいかわからず頭が真っ白になってしまいました。

どうしてそうなった?

 酸素ボンベ残量の確認不足により、搬送に必要な酸素量が足りなくなってしまった状態です。人工呼吸器管理の患者さんの搬送中、酸素投与ができなくなるということは、患者さんが危機的状況に陥る危険性がとても高いということです。

どう切り抜ける?

1.搬送前に酸素ボンベの残量を確認する

 酸素ボンベは圧力計の表示から、使用可能時間を算出できます。搬送にかかる時間を考え、搬送中に酸素ボンベの残量が不足しないかどうか搬送前に確認します。

1)ボンベの種類

 ボンベの種類と充填量・重量等を表1にまとめました。一般的に3.4L容器のボンベが使用されています。

2)酸素ボンベの充填量の計算方法

ボンベの充填量(L)=ボンベの容積(L)×充填圧力(MPa)×10

 ボンベ3.4L容器では、3.4L×14.7MPa×10=499.8で、約500Lとなります。フローメーターにはMPa表記とkgf/cm2表記の2種類があります。

3)MPaとkgf/cm2の違いは?

 これらはともに圧力の単位です。1999年10月1日から、医療ガスの圧力単位がkgf/cm2 (キログラム毎平方センチメートル)から、国際単位系のPa(パスカル)に変更されました。圧力計にはMPa(メガパスカル)が使用されています。

4)酸素ボンベの使用可能時間について

 酸素ボンベの使用可能時間は、ボンベ内の充填残圧と使用する酸素流量により変わります。実際に使用する際には、ボンベを空にせず安全に使用できるように、「安全係数(8割)」を考慮し、使用可能時間を計算することが推奨されています。

5)ボンベの使用可能時間(分)の計算方法

①まず、ボンベにどれくらいの酸素が残っているか、使用可能量を計算します。

フローメーターがMPa表記の場合
 ボンベの容積(L)×圧力計の指示値(MPa)×10×0.8(安全係数)=使用可能量(L)
フローメーターがkg/cm2表記の場合
 ボンベの容積(L)×圧力計の指示値(kg/cm2)×0.8(安全係数)=使用可能量(L)

②使用可能量を実際に使用する酸素投与量で割り、使用可能時間を計算します。

使用可能量(L)÷使用投与量(L/分)=使用可能時間(分)
(例)酸素ボンベの容積3.4L、ボンベ残量10MPa、使用投与量8L/分のときの使用可能時間は?
3.4L×10MPa×10×0.8(安全係数)÷8L/分=34分

 8L/分投与が必要なときは34分使用可能であることがわかりました。注意点として、搬送にかかる時間だけを概算するのではなく、移動先での移乗の時間など、酸素投与が必要な時間を考慮しておく必要があります。

 搬送して検査をして…と考えると、意外と時間がかかることがわかると思います。検査中も酸素ボンベを使用してしまうと、すぐに残量がなくなってしまうので、移動時のみ酸素ボンベを使用して、中央配管がある場所では中央配管から酸素供給を行います。

ピンチを切り抜ける鉄則

 搬送途中に、「酸素ボンベがなくなった!」というようなことが起こらないようにするためには、「酸素ボンベの残量は?」「酸素投与量は?」「搬送や移乗にかかる時間は?」といった情報を集め、ボンベの使用可能時間を計算し、安全に患者さんの搬送が行えるための準備を事前にすることが必要です。

1.道又元裕:これならわかる!呼吸器の看護ケア.ナツメ社,東京,2021:57.
2.日本医療ガス学会ホームページ:医療ガス研修会.
https://www.medical-gas.gr.jp/files/MGTrainingVer2.ppt(2024/3/18アクセス)
3.道又元裕:新 人工呼吸ケアのすべてがわかる本.照林社,東京,2014.

【起こった状況 どうしてそうなった? どう切り抜ける】 3つのポイントで現場の『ヒヤリ』を切り抜けよう! 看護のピンチ

看護のピンチ
道又元裕 編
B5・176ページ・定価 2,750円(税込)

体位調整したら、急に血圧が低下した!どうする!?

 この春に発売された新刊書籍『看護のピンチ』(道又元裕編集、照林社発行)は、現場でよく見られるピンチの場面を振り返って、何をどうすればトラブルを防ぐことができたのか、予見と防止のポイントと鉄則を示した1冊です。これから看護業務が本格化していく新人ナースに、久々に病棟復帰した方に、すぐに役立つ内容になっています。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました!全5本の記事を順次公開していきますので、ぜひ、この機会に読んでみてください!

 今回のピンチは…体位調整したら、急に血圧が低下した!

 ケアを行うときには、さまざまな要因によって起こる「生体内の恒常性を乱す事象」をアセスメントすることが重要です。特に、集中治療室などで高度な侵襲を受けた患者さんには、いっそうの注意が必要です。

起こった状況

 85歳の患者Aさん。食道がん術後2日目に集中治療室から一般病棟へ退出しました。集中治療室で
リハビリ中に気分不良となり、離床を延期した経緯があります。一般病棟へ退出後、痛みで寝返りがで
きないため、介助で右側臥位をとっていました。その際、気分不良の訴えと血圧低下がありました。

どうしてそうなった?

 解剖学的に、右側臥位では重力の影響により、肺や心臓の重さが上下大静脈に加わり、血管や右房を圧迫する場合があります。それにより心臓に戻ってくる血液量が低下するために血圧が低下する可能性があります。このような状況下での血圧低下は、カテコラミン投与中や脱水傾向の患者さんで起こりやすいと言われています。

 ショックは言うまでもないですが、脱水、特に高度な侵襲を受けた患者さんには注意が必要です。高度な侵襲を受けた患者さんは、身体の生体反応として血管透過性が亢進します。血管内の水分が血管外に滲出した状態であり、血管内は脱水となります。血圧が低下したのは、この脱水状況下での右側臥位と考えられます。

どう切り抜ける?

1.患者さんの状況を把握する

 患者さんが、侵襲度の高い刺激を受けていないかどうかを確認します。手術は生体の内部環境を乱す外部からの刺激となります。手術の種類によっても侵襲度は変わってきます。そのため、受け持つ患者さんの侵襲度がどの程度なのかを確認しましょう。また、手術による侵襲以外に、外傷、熱傷、出血、中毒、感染、脱水、強い痛みなどがあります。最も身体に影響を及ぼす侵襲は、ショックです。

2.侵襲度の高い刺激を受けている患者さんのケアは慎重に行う

 侵襲を受けた患者さんは、生体反応により、恒常性を保とうしています。侵襲が高いと生体反応によって酸素の供給と需要のバランスを保つことが難しくなります。そのため、看護ケアは「酸素供給を低下させない」「酸素需要を増加させない」ようにする必要があります。つまり、血圧低下や交感神経を急激過度に刺激するようなケアを避ける必要があります。

 高い侵襲刺激を受けている患者さんは、側臥位になるだけでも血圧が低下します。この血圧低下により酸素供給は低下するので、このような患者さんに対する体位調整は、あえて除圧のみにすることを考慮します。体位調整を行うのであれば、患者さんの負担を最小限にするために数人でゆっくり行いましょう。

 また、身体がずれたり、ねじれたりし、患者さんが不快に思う体位は交感神経を刺激し、酸素需要を増加させます。患者さんが楽と思う体位に調整できるように配慮しましょう。

 体位変換以外にも不要な気道吸引を避ける、保清ケアは寒冷刺激を避ける、痛みのコントロール、睡眠コントロール、せん妄予防など交感神経を刺激しないようにケアを行っていくことが肝要です。

ピンチを切り抜ける鉄則

 体位調整だけでなく、看護ケアを行う際には、患者さんの既往と現在受けている侵襲度をアセスメントし、その状況に応じて慎重に行うことが必要です。時には、ケアを行わない、あるいは最小限にするという判断をすることも大切な選択であることを認識しましょう。可能な限り、患者さんの苦痛を低減するケアを行うことが重要です。

1.星野晴彦,櫻本秀明:体位で血圧は容易に変化するのか?.ICNR 2015:25-29.
2.道又元裕:みる・聞く・読むで楽に学べる 道又元裕のショックと侵襲の講義 実況中継.Gakken, 東京,2016.

【起こった状況 どうしてそうなった? どう切り抜ける】 3つのポイントで現場の『ヒヤリ』を切り抜けよう! 看護のピンチ

看護のピンチ
道又元裕 編
B5・176ページ・定価 2,750円(税込)

せん妄患者が、脳室ドレーンを自己抜去した! どうする!?

 この春に発売された新刊書籍『看護のピンチ』(道又元裕編集、照林社発行)は、現場でよく見られるピンチの場面を振り返って、何をどうすればトラブルを防ぐことができたのか、予見と防止のポイントと鉄則を示した1冊です。これから看護業務が本格化していく新人ナースに、久々に病棟復帰した方に、すぐに役立つ内容になっています。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました!全5本の記事を順次公開していきますので、ぜひ、この機会に読んでみてください!

 今回のピンチは…せん妄患者が、脳室ドレーンを自己抜去した!

 脳室ドレーン挿入の目的は、脳室に貯留した髄液を外部に排出し、脳室の拡大を防ぎ頭蓋内圧亢進を予防することです。脳室ドレナージ管理は、生命の維持には大変重要です。術後はせん妄によるドレーンやルート類の自己抜去などが起こりやすくなるため、せん妄のリスクをアセスメントする必要があります。

起こった状況

 70歳代、女性、Aさん。くも膜下出血術後にて脳室ドレーンが挿入されICUに入室しています。術後2日目、鎮静薬を中止し気管挿管チューブは抜去されました。脳室ドレーンの他、さまざまなチューブ類が挿入されています。意識レベルはGCS:E3V3M5となり、声かけにはつじつまが合わず、頭を持ち上げる動作も増えていました。準夜勤務に入って間もなく、Aさんはベッド上で座位になり、脳室ドレーンを抜いてしまいました。

どうしてそうなった?

 半覚醒したAさんにはたくさんのチューブが挿入されており、環境の把握もできない状況であると考えられました。覚醒リズムの障害や注意障害によるせん妄が起こるリスクが高い状態です。ベッド上の活動が徐々に増えてきた時点で、ルート類の自己抜去につながらないような対策はとられていませんでした。

どう切り抜ける?

1.患者さんの安全を確保する

 環境の把握ができない患者さんは、予期せぬ行動を起こすことがあります。転倒・転落やその他のルート類の抜去、損傷などの危険があり、看護師はその場を離れず人員を確保する必要があります。
同時にベッド周囲の環境整備を行い、患者さんの安全を確保します。看護師の行動が逆に患者さんの興奮を招いてしまう恐れもあるため、対応は落ち着いた態度と声かけを行い、即座に医師に報告し対応を依頼します。

2.ドレーン挿入部への対応と抜去されたドレーンの観察

 ドレーンが抜去された創部は、外部と脳室が交通されています。即座に消毒し滅菌ガーゼで覆い、さらにフィルム材で覆い、創部と脳内の感染を予防します。医師が到着したら創部を縫合します。抜去されたドレーンのカテ先や破損の有無を確認し、脳内からすべて抜去されているかの確認をします。もしも、カテ先が脳内に残ってしまった状態となれば、再開頭術が必要となってしまいます。

3.ベッドを水平にし、安静を保つ

 ベッドを水平にし、頭蓋内圧を高めに維持し、逆行性感染を予防します。頭を持ち上げず、安静が保てるように整え、バイタルサイン、神経所見の観察をします。

4.頭蓋内圧亢進の観察

 脳室ドレーン抜去後は、頭蓋内圧亢進症状の出現が予測されます。自覚症状としては激しい頭痛や悪心・嘔吐、他覚症状としては意識レベル低下や、クッシング現象(血圧上昇・徐脈)、瞳孔異常、痙攣などに注意が必要です。頭蓋内圧亢進は、脳ヘルニアを起こし重篤な意識障害や命の危機に陥ります。状況によっては、再度ドレナージが必要となり、脳室ドレーンの再挿入、またはスパイナルドレナージでの管理を行うこともあります。

ピンチを切り抜ける鉄則

 脳室ドレーンの安全な管理には、術後せん妄の発症に対する早期対応がカギとなります。光や音などの環境調整や睡眠と覚醒リズムへの対応、ルート類は最小限にすることなどが重要です。また、患者さんの痛みや便秘など苦痛となる症状も取り除く必要があります。
 せん妄評価ツールを用いて、発症リスクをアセスメントし、発症時に早期対応できるように医師と連携し準備をしておきましょう。

1.小川朝生:自信が持てる!せん妄診療はじめの一歩 誰も教えてくれなかった対応と処方のコツ.羊土社,東京,2020:38-47.
3.日本脳神経看護研究学会:マンガで学ぶ脳神経疾患患者の急変対応33場面.ブレインナーシング.メディカ出版,大阪,2022:191-194.

【起こった状況 どうしてそうなった? どう切り抜ける】 3つのポイントで現場の『ヒヤリ』を切り抜けよう! 看護のピンチ

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道又元裕 編
B5・176ページ・定価 2,750円(税込)

患者さんの入れ歯を看護師が廃棄してしまった! どうする!?

 この春に発売された新刊書籍『看護のピンチ』(道又元裕編集、照林社発行)は、現場でよく見られるピンチの場面を振り返って、何をどうすればトラブルを防ぐことができたのか、予見と防止のポイントと鉄則を示した1冊です。これから看護業務が本格化していく新人ナースに、久々に病棟復帰した方に、すぐに役立つ内容になっています。

 今回、特別に試し読み記事を公開しました!全5本の記事を順次公開していきますので、ぜひ、この機会に読んでみてください!

 今回のピンチは…患者さんの入れ歯を看護師が廃棄してしまった!

 医療者による患者さんの私物紛失や破損は、医療者の不注意や確認不足が原因として挙げられます。入れ歯を紛失した場合は、代替品を準備するには時間がかかり、患者さんの日常生活に影響が出るため紛失や破損には注意が必要です。

起こった状況

 70歳代、男性、人工股関節置換術後でリハビリ入院中。患者さんは朝食後に入れ歯を外し、口腔ケアを行った後、ティッシュに包んでガーグルベースンに入れていました。日勤の看護師が環境整備のため訪室すると、患者さんが横になっていたため、担当の挨拶をして環境整備を行い、オーバーテーブルに置いてあったガーグルベースンを片づけました。昼食を食べる前に入れ歯を装着しようとしたとき、入れ歯がないことに気がつきました。

どうしてそうなった?

 担当看護師は患者さんが休んでいたため、声をかけずにベッド周囲を片づけました。その際、ガーグルベースンにはティッシュのゴミが入っていると思い、中身に触れずにそのままゴミ箱に廃棄してしまいました。患者さんの入れ歯がないという訴えを聞いてはじめて、ガーグルベースンに入れ歯が入っていたことに気がつきました。

どう切り抜ける?

1.入れ歯を捜索する

 患者さんの入れ歯を廃棄したことに気づいた時点で、紛失した経緯をリーダー看護師に報告します。ガーグルベースンを片づけた際のティッシュと入れ歯がゴミ箱に残っていないか、ベッド周囲を捜します。紛失してから時間が経過しているため、病棟内のゴミ収集が完了している場合は、病棟内のゴミ収集場所の捜索も検討します。ゴミ収集場所を捜索する場合は、廃棄物の管理について病院のルールに従い、感染防御を行いなが捜索します。

2.紛失物を発見できなかった場合

 一般的に入院時のしおりや案内で、患者さんの私物は自己管理であり、「紛失や破損などの責任は病院が責任を負いかねます」などと明記している場合があります。しかし、患者さんの病状や状況によっては看護師が管理する場面もあり、患者さんの私物管理には注意しなければなりません。医療者の不注意で患者さんの私物を紛失した場合、病院の安全管理上の問題として補償問題につながる恐れがあります。

 患者さんの入れ歯紛失の経緯や、病棟内やゴミ収集場所などを捜索したが見つからないことを所属長に報告し、入れ歯の紛失に対してどのように対応するか相談します。入れ歯を捜索したが発見できなかった場合、患者さんと家族にもその旨を説明し、誠意をもって謝罪します。

3.確認不足、思い込み、コミュニケーションエラー

 担当看護師は、ベッド周囲を片づける際、患者さんの了承を得ていませんでした。確認してからガーグルベースンを片づけていれば、入れ歯の紛失は防げた可能性があります。また、ガーグルベースンの中身はティッシュペーパーだけという思い込みがありました。直接触れて確認すれば、入れ歯の存在に気づけたと考えられます。患者さんの私物を紛失した原因として、医療者の確認不足や思い込み、患者さんとのコミュニケーションエラーが挙げられます。

 患者さんのベッドサイドやその周囲は、患者さんの療養の場であり、ある意味において居住スペースです。不要品と感じる物でも患者さんには必要物品の可能性があるため、患者さんの荷物やスペースの物に触れる際には、必ず患者さんの同意を得る必要があります。

4.入れ歯紛失の予防対策

 入院時から、入れ歯紛失を防止するため、入れ歯の容器の準備を患者家族に依頼します。入れ歯を使用した後はティッシュや紙に包むとゴミと間違えて捨てる恐れがあるため、必ず所定の位置(口腔か容器)に戻すように定期的に注意喚起します。

ピンチを切り抜ける鉄則

 患者さんの私物の紛失や破損、盗難などトラブルが発生すれば、患者家族との信頼関係が損なわれ、紛失物の捜索や警察対応などに発展する場合もあります。トラブルを避けるためには、医療者の危機意識を高めることはもちろん、患者さんや家族にも私物の管理方法や、紛失・盗難等に対する危機意識を持ってもらうことが重要です。

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日本褥瘡学会がMDRPUの日本語名称を「医療関連機器褥瘡」に変更すると発表

 日本褥瘡学会は2月、MDRPU(medical device related pressure ulcer)の日本語名称をこれまでの「医療関連機器圧迫創傷」から「医療関連機器褥瘡」に変更すると発表しました¹。

 MDRPUとは自重によるものではない圧迫創傷を指し、同学会では「医療関連機器による圧迫で生じる皮膚ないし下床の組織損傷であり、厳密には従来の褥瘡すなわち自重関連褥瘡(self-load related pressure ulcer)と区別されるが、ともに圧迫創傷であり広い意味では褥瘡の範疇に属する」と定義しています²。

 「医療関連機器褥瘡」は、英語名の MDRPUとMDRPI(medical device related pressure injury)両方の意味を含みますが、“M(medical)”を抜き、DRPUと表記している国もあるため、同学会は“M”を含めるかの検討を重ねていくとしています¹。

 褥瘡のうち、医療関連機器によって生じるものが、一般・大学病院で約10~20%、小児専門病院では約56%です³。同学会はホームページにて医療安全として予防に取り組むよう呼びかけるポスターを公開しています⁴。

1.日本褥瘡学会ホームページ:「医療関連機器圧迫創傷」の名称変更について.
https://www.jspu.org/medical/mdrpu/docs/mdrpu.pdf(2024.3.20アクセス)
2.日本褥瘡学会ホームページ:用語集 医療関連機器圧迫褥瘡.
https://www.jspu.org/medical/glossary/(2024.3.20アクセス)
3.日本褥瘡学会 実態調査委員会:第4回(平成28年度)日本褥瘡学会実態調査委員会報告3 療養場所別医療関連機器圧迫創傷の有病率,有病者の特徴,部位・重症度,発生関連機器.褥瘡会誌 2018;20(4):488.
4.日本褥瘡学会:医療関連機器圧迫創傷を知っていますか.
https://www.jspu.org/medical/mdrpu/docs/mdrpu.pdf(2024.3.20アクセス)

病気を告げる場面での倫理的調整

 今年5月に発売した『今だからこそ知りたい 臨床で倫理的問題にどう向き合うか』(ウィリアムソン彰子 編・神戸大学医学部附属病院看護部 著、照林社)は、日ごろの看護業務や、多職種とのやりとりで感じる「これでいいのだろうか?」というモヤモヤの本質である倫理的問題を考える1冊です。今回は、特別に試し読み記事を全3回でお届けします。

 第3回目は臨床での事例をもとにした、「倫理カンファレンスの流れ」を解説した一部をご紹介します。書籍の試し読みはこちらからどうぞ。

病気を告げる場面での倫理的調整

 医師が「患者に病気を告げる」とき、倫理的問題が生じやすいことは、みなさんも臨床で実感していることと思います。患者は病名を知りたいのに家族が「伝えてほしくない」と言う場面や、認知機能低下のある患者ではなく家族のみに説明する場面など、さまざまです。

 ここで取り上げるのは、家族は「本人に病名を伝えてほしくない」し、本人も「知りたくない」という事例です。一見、倫理的問題はなさそうにみえますが、本人の知りたくない権利と家族への対応について考える目的で話し合いをもちました。

事例紹介

患者の情報
70歳代、男性、長女と2人暮らしのAさん(妻は7年前に他界)。長男は他県に居住。前頭部の硬結が出現したため受診。検査の結果、頭部血管肉腫と診断された。
これまでの経過
長男と長女は、妻を看取るときにAさんがうつ状態となったことから、本人に病名を伝えないことを希望。Aさん自身も「怖い話は聞きたくない。治療は受けるつもり」と話していた。主治医は、Aさんには病名を伝えず、CRT(chemoradiation therapy:化学放射線療法)の提案と副作用だけを説明。長男と長女には「血管肉腫であること」「再発・転移が多く根治は難しいこと」「治療は進行抑制が目標となること」「いずれは進行する可能性が高いこと」が伝えられた。その後、Aさんは治療のために入院。担当看護師はインフォームドコンセントの内容に疑問を抱き、病棟での対応を話し合うことにした。
倫理カンファレンス参加者
リーダー看護師、担当看護師、主治医、外来看護師、中堅看護師
★倫理カンファレンスはリーダー看護師から提案
★退院後も継続的なかかわりができるようにするために外来看護師にも参加してもらうことに
★入院日に通常のカンファレンスとして実施

倫理カンファレンス参加者の意見

リーダー看護師「Aさんへの病状説明について意見交換したいと思います。長女はなぜ「病名は伝えないでほしい」のでしょうか?」

担当看護師「Aさんは7年前に妻を看取った際、うつ状態になったそうです。長女は「病名を知ると治療を受ける気力がなくなる」と思っており、Aさん自身も「怖い話は聞きたくない」と言っています」

中堅看護師「過去の経験が影響しているのですね。でも、予後の見通しを伝えずに治療を進めて、Aさんは後悔しないでしょうか。すべての情報を伝えたうえで意思決定してもらわなくてよいのでしょうか」

外来看護師「病名告知していないので、踏み込んだ話がしにくいです。また、信頼関係が構築されていないなかで、どこまでAさんの思いを聞くか悩みました」

主治医「Aさん自身が病名告知を希望していないので、「性質のよくないデキモノ」と説明しましたが、それ以上の質問はありませんでした。治療は希望しているので、治療内容と副作用は伝えています。説明書類に病名は書かれていませんが、「抗がん剤を使用する」と伝えても、特に反応はありませんでした」

リーダー看護師「Aさんは、その説明書類をご覧になっているのですね」

担当看護師「Aさんは病名を察していて、今後、看護師に尋ねてくるかもしれません。対応をチームで共有しておくべきかと思います」

リーダー看護師「そうですね。ご家族とも今後の相談をしておきたいですね」

事例の論点を整理する

 この事例において大切なのは、「本人の知りたくない権利」「家族の伝えないでほしい気持ち」にどのように対応するか、ということです。この2 つに関して倫理原則による分析を行うために、臨床倫理4分割表に基づいて情報整理をしました。

医学的適応

診断と予後

  • 頭部血管肉腫で根治は困難。治療目標は進行の抑制。今後進行することが予想される

医学の効用とリスク

  • CRTの副作用は説明済み
  • 出血などのリスクがあり、早急な治療開始が必要

患者の意向

患者の判断能力

  • 説明された病状についての理解・認識はあり、意思決定能力はある

事前の意思決定

  • 怖いことは聞きたくない
  • 7年前に妻を看取ったときはうつ状態になった
  • 治療(CRT)は受けたいし、副作用は聞きたい

QOL

  • 病名を伝えなければ、以前のようにうつ状態になることは避けられるかもしれない
  • 病名を伝えないと、隠しごとをしながら生活する家族の心理的な負担が生じる可能性がある
  • 病名を伝えないことで本人の知りたくない権利は守られている

周囲の状況

家族

  • 本人には病名を伝えずに説明してほしい
  • 妻を看取ったときのようなうつ状態にならないか心配

医療者間に問題はないか

  • 中堅看護師・担当看護師:すべての情報を得ずに治療して本人は後悔しないか
  • 主治医:出血などのリスクを防ぐために治療は必要。病名は伝えていないが、抗がん剤を使うことと副作用の説明は行っている

倫理的に考えるためのヒント

患者の「知りたくない権利」も尊重する

 患者の権利に関するリスボン宣言1では、自分に関する情報を知る権利と同様に、「患者は、他人の生命の保護に必要とされていない場合に限り、その明確な要求に基づき情報を知らされない権利を有する」と述べられています。

 つまり、自律尊重の原則に基づくと、Aさんの「怖いことは知らないでおきたい」という選択を支えるのが最善となります。

 一方、担当看護師は「インフォームドコンセントとは病名や治療目標、今後の見通しなどを伝えたうえで本人がどうしたいかを考えること」だと考えているため、病名すら知らされていない状況では十分なインフォームドコンセントが取れていると思えずにいます。再発したときのショックは非常に大きいため、根治は難しいと知らせることが「善行の原則」に則った対応だと考えているわけです。

 しかし、本人の知りたくない権利が守られないことは「無害の原則」に反します。

 つまり、本事例では自律尊重の原則善行(無害)の原則が対立しており、看護師がジレンマに陥っている状況だ、と理解できます。

家族の「伝えないでほしい」という気持ちについて考える

 家族は、Aさんが妻を看取ったときのようにうつ状態となるのが心配で「告知をしないこと」を希望しています。

 病名告知に家族が反対する場合、家族自身の気持ちが追いついておらず、自分の不安を患者に投影している場合がある2ことに注意が必要です。

 本事例に当てはめて考えてみると、長女はAさんと同居しています。そのことから長女は、Aさんのことを思いやると同時に、長女自身もショックを受けていると考えられます。この点については、今後、情報収集を行って対応していく必要があります。

つづきは書籍で!

今だからこそ知りたい  臨床で倫理的問題にどう向き合うか
ウィリアムソン彰子 編、神戸大学医学部附属病院看護部 著
B5・128ページ・定価 2,420円(税込)
照林社

1.日本医師会:患者の権利に関するWMAリスボン宣言.
https://www.med.or.jp/doctor/international/wma/lisbon.html(2024.4.24アクセス).
2.森田達也,田代志門:臨床倫理のもやもやを解きほぐす緩和ケア×生命倫理×社会学.医学書院,東京,2023:6.

倫理カンファレンスの進め方

 今年5月に発売した『今だからこそ知りたい 臨床で倫理的問題にどう向き合うか』(ウィリアムソン彰子 編・神戸大学医学部附属病院看護部 著、照林社)は、日ごろの看護業務や、多職種とのやりとりで感じる「これでいいのだろうか?」というモヤモヤの本質である倫理的問題を考える1冊です。今回は、特別に試し読み記事を全3回でお届けします。 

 第2回目は、倫理カンファレンスの進め方を解説した一部をご紹介します。書籍の試し読みはこちらからどうぞ。

倫理カンファレンスの「目的」を理解する

 倫理カンファレンスは、倫理的問題を未然に防ぐこと、あるいは、すでに発生している倫理的問題への対応を検討することを目的として開催するものです。

 倫理的問題が「生じる前」に、あるいはすでに問題が生じている場合は「重大な問題になる前」に話し合い、対応を検討することが重要です。そのためには、看護師の早期の気づき、すなわち倫理的感受性を高めることが大切です。

多職種をつなぐ看護師は、倫理カンファレンスの要 

 看護師には、以下の2 つの役割があります1

 ①患者の代弁者・権利の擁護者として、患者と医療チームとの調整をする役割
 ②医療チームのメンバーが他職種の専門性を十分に理解して、良好なコミュニケーションを図れるように調整する役割

 すなわち、看護師は、倫理カンファレンスにおいても、職種間のコミュニケーションを促進しながら、合意形成に向けて話し合いを進めていく中心的な役割を担っています。

 それゆえに、看護師の気づきから倫理カンファレンスが開かれることが多いと考えられます。

「合意形成=論破」ではない

 倫理カンファレンスの最終目標は「患者にとって最善の医療・ケアをめざすこと」です。そのためには、まず、相手の意見を否定・批判せずに受け入れることが大前提となります。

 他者の考えを聴き、さまざまな価値観を知ることで、自身がもつ価値観に気づくことが重要です。自身の考え方の癖、偏りを知ることが“ 他者の考えを聴こう” “ もっと全体像を見て考え「合意形成=論破」ではないよう” という変化につながります。

 合意形成までのプロセスは、決して容易ではありません。患者を取り巻く環境が複雑な場合も多いです。かかわる人々が互いの価値観を理解し、“ 患者の最善とは何か” を検討することが重要です。だからこそ、自身の意見を感情的ではなく、論理的に述べることが大切です。

臨床でよくみる具体的な場面の例

 医師が、家族だけに「療養型病院に転院すること」を説明し同意を得ました。しかし、看護師が「患者は自宅に帰りたいのでは?」と感じ、倫理カンファレンスを行った結果、医師が患者に「療養型病院に転院すること」を説明し、患者が同意して転院となりました。結果だけみれば同じですが、患者の自律が尊重されているかが重要なのです。

倫理カンファレンスの「グランドルール」を共有する

 効果的な倫理カンファレンスにするためには、グランドルールを取り決め、自由に発言できる安心・安全な場をつくることが重要です。グランドルールの例は下記のとおりです。

  • 倫理カンファレンスには主体的に参加しましょう
  • 他者の意見を非難・否定しないようにしましょう
  • 他者の話をさえぎらず、最後までしっかり聴きましょう
  • 建設的な意見を述べましょう
  • 時間を守り、進行に協力しましょう

 特に、多職種で話し合う際には、ルールのすり合わせが必須です。カンファレンスの前に、ファシリテーターがルールを説明しましょう。

 カンファレンスは短時間で行うことも多いです。「意見は簡潔に述べましょう」など、状況に合わせてルールを検討するのもよいでしょう。

参加者全員が「発言しやすい場」をつくる

 倫理的問題に、絶対的な正解はありません。「正しい意見を述べなくては」と気負うことなく、メンバーの一員として主体的に意見を述べましょう。看護師が、日ごろのケアをとおして、患者の思いや表情から気づいたことや、家族とのかかわりから感じたことが、倫理カンファレンスでとても重要な情報となることも、少なくありません。

 そして、否定・非難することなく相手の話も聴きましょう。参加者の職位や先輩・後輩という上下関係に影響されない自由に発言できる環境づくりも大切です。

みんなが主体的に発言できるカンファレンス

 倫理カンファレンスのファシリテーターを担当した人から、ときどき「消極的なスタッフがほとんど発言してくれず、困っている」という悩みが寄せられます。
 参加しているスタッフが消極的になってしまう原因として、「このタイミングで発言していいのか躊躇している間に、発言できずに終わってしまった」場合や、「その事例にあまりかかわっていないので発言しづらい」場合などが考えられます。このような場合、ファシリテーターが、まだ発言していない参加者に対して「いろいろな意見が出ましたが、意見や感想はありますか?」など強制的にならないように声をかけるようにするとよいでしょう。
 もし、あなたが、倫理カンファレンスに苦手意識があり、「どう発言すればいいかわからない」と悩んでいるなら、倫理カンファレンスでは、他者の考えを聴くことで、自身がどんな価値観をもっているのか気づくことも重要なポイントである、ということを知ってほしいと思います。「みなさんの意見を聴き、○○の気づきがありました」などと倫理カンファレンスのなかで述べてみてもよいと思います。

つづきは書籍で!

今だからこそ知りたい  臨床で倫理的問題にどう向き合うか
ウィリアムソン彰子 編、神戸大学医学部附属病院看護部 著
B5・128ページ・定価 2,420円(税込)
照林社

1.秋元典子:看護のアイデンティティ.ライフサポート社,神奈川,2021:146.