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【連載まとめ】たらればさん×エキナス編集長トークイベント

 編集者のたらればさんと『エキスパートナース』編集長によるトークイベントをレポート!紀伊國屋書店新宿本店で、「いまの時代だからこそ専門雑誌を読んでほしい理由」を語り合いました。全3回の記事で、当日の様子をお伝えします。
 ※イベントは2024年11月に開催しました。

たらればたられば

古典文学をはじめ、さまざまな情報をSNSで発信する編集者。フォロワー数は23万人以上。かつて『エキスパートナース』のなかでその名前が掲載されたことも。
@tarareba722

『エキスパートナース』編集長えきすぱーとなーすへんしゅうちょう

『エキスパートナース』本誌とwebの編集長。エキナスの公式Xでいつも漫画の話をしている。
@ExpertNurse_EN

第1回

〈目次〉
●今が雑誌の大きな転換期
●雑誌の“価値”を伝えていくこと
●すぐ近くにある、タイムライン

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第2回

〈目次〉
●映画やCDのように、雑誌を楽しむ
●紀伊國屋書店新宿本店と2人
●“うっかり”の出会いがもたらすもの

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第3回

〈目次〉
●雑誌と時代
●雑誌の未来は?
●たらればさんと編集長に聞きたいこと

・特集はどうやって決めているの?
・表紙はどうやって決めている?
・著者に期待していることは?
・ダイビングの専門誌を作ってほしい
・医学系出版社でウェブの企画を通すには?
・第2のたらればさんをめざすには?
・定期購読と電子版について知りたい
・若い読者を増やす方法は?

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【連載まとめ】ハート先生の心電図特集

 心電図の教育活動をはじめて約25年、ハート先生の書籍を試し読みできます! 誘導法の基本や、T波の陰性化、ST上昇・下降などについてわかりやすく解説します。

誘導法の基本と心電図波形が描かれる原則

〈内容〉
●誘導法の基本①:四肢誘導の目の位置
●誘導法の基本②:胸部誘導の目の位置
●正常12誘導の特徴
●心電図波形が描かれる原則

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T波の陰性化と貫壁性に発生した虚血

〈内容〉
●虚血が起こると心筋細胞はどのように変化する?
●T波の陰性化
●虚血状態が悪化すると傷害電流が発生
●貫壁性に発生した虚血

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心電図のST上昇・下降の判定方法/虚血解消でT波が逆転する理由

〈内容〉
●「STが何ミリ上昇(下降)している」とはどの部分を指す?
●なぜ虚血が解消するとT波が逆転する?

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【連載まとめ】整形外科の疾患と治療

 スポーツ診療にも精通した部位別スペシャリストの医師たちが、整形外科ナースの疑問に答えます!腰痛圧迫骨折、腱板断裂、変形性膝関節症の病態や症状、治療について解説する全3回の連載です。

【第1回】腰椎疾患:腰椎圧迫骨折(骨粗鬆症性)

〈目次〉
●腰痛圧迫骨折(骨粗鬆症性)の病態
●腰痛圧迫骨折(骨粗鬆症性)の症状
●腰痛圧迫骨折(骨粗鬆症性)の検査
●腰痛圧迫骨折(骨粗鬆症性)の治療
・経皮的椎体形成術(BKP)
・後方椎体間固定術

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【第2回】肩の慢性疾患:腱板断裂

〈目次〉
●腱板断裂の病態
●腱板断裂の症状
●腱板断裂の検査
●腱板断裂の治療
・関節鏡下腱板修復術(ARCR)
・リバース型人工肩関節置換術(RSA)

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【第3回】膝関節の慢性疾患:変形性膝関節症

〈目次〉
●変形性膝関節症の病態
●変形性膝関節症の症状
●変形性膝関節症の検査
・変形性膝関節症(膝OA)の単純X線を用いた重症度分類
●変形性膝関節症の治療
・高位脛骨骨切り術(HTO)
・人工膝関節置換術

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【連載まとめ】看護記録を整える

 看護記録を見直し、改善するには?看護記録を効率化する方法や、医療DXによる変化、看護記録の監査・教育について解説する全3回の連載です。

【第1回】看護記録の効率化―「整える」4つの条件

〈目次〉
●看護記録の効率化を図るには
●なぜ、いま看護記録を「整える」のか
・Point①看護記録が「整っている」といえる条件は4つ
・Point②記録の効率化は「働き方改革」の観点からも重要
・Point③電子カルテの導入・改善時は、看護記録を整える大チャンス
●記録委員・記録担当になったら自施設の状況・課題を把握する
・Point①まずは自施設・自部署の「看護記録の状況」を把握する
・Point②看護記録に関する「用語」を正しく理解する
・Point③看護記録の「形式」を正しく理解する

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【第2回】DX推進によって、看護記録はどう変わる?

〈目次〉
●変化の時代における看護記録のあり方を考える
・Point①看護記録は時代に合わせて変化していくもの
・Point②地域連携推進のため多施設での看護記録の共有が進む
・Point③DXが進んでも、看護の本質は変わらない

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【第3回】看護記録の監査や教育で注目すべきポイント!

〈目次〉
●看護記録の監査とは
・Point①看護記録の監査は、漫然と実施しても意味がない
・Point②看護記録の監査も、「量(形式)」と「質」の両面を評価する
・Point③帳票や諸記録の監査は、できるだけ多職種で行う
●看護記録教育とは
・Point①看護記録の「意味」「目的」を意識づけることが大切
・Point②「考える力」「書く力」は経験の積み重ねによって磨かれる
・Point③看護記録の継続教育には「ラダー別教育」が有効

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【連載まとめ】臨床で倫理的問題にどう向き合うか

 看護倫理の基礎知識や、倫理カンファレンスの進め方を解説する全3回の連載です。さまざまな臨床場面で必要な看護倫理を学べます。

【第1回】看護現場での倫理的問題の基礎知識

〈目次〉
●倫理的問題は身近なところにある
●看護業務におけるジレンマ
●職種間でのジレンマ
●非規範倫理学は「倫理の基本」となる概念

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【第2回】倫理カンファレンスの進め方と看護師の役割

〈目次〉
●倫理カンファレンスの「目的」を理解する
・多職種をつなぐ看護師は、倫理カンファレンスの要
・「合意形成=論破」ではない
●倫理カンファレンスの「グランドルール」を共有する
・参加者全員が「発言しやすい場」をつくる

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【第3回】臨床事例から考える、倫理カンファレンスの流れ

〈目次〉
●病気を告げる場面での倫理的調整
●倫理カンファレンス参加者の意見
●事例の論点を整理する
●倫理的に考えるためのヒント

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【連載まとめ】神経難病の病態・ケア・支援がトータルにわかる

 神経難病にはさまざまな種類があり、疾患ごとに経過や起こりうる症状が異なります。療養行程を知り、患者さんと家族を支えるために必要な看護について解説する全3回の連載です。

【第1回】神経難病看護とは:「難病とともに生きる」を支えるために

〈目次〉
●難病の「分類」を理解する
・難病を疾患でとらえると、看護問題がつかみづらくなる
●症状を理解すると、看護の展開がみえてくる
・神経難病の症状は多彩で個人差がある
●経過に合わせた支援のためにチームで協働する
・療養行程と経過は対応している

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【第2回】神経難病患者の療養行程:経過に応じた支援を考える

〈目次〉
●「療養行程=病期」ではない
●Step1 各行程における支援課題をおさえる
・発症期の支援課題
・進行期の支援課題
・移行期の支援課題
・維持・安定期の支援課題
・終末期の支援課題
●Step2 対応策を立てる

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【第3回】コミュニケーション機能障害の看護のポイント

〈目次〉
●神経難病におけるコミュニケーション機能障害
●症状の特徴や変化
●アセスメントのポイント
●看護のポイント
・早期に支援を開始する
・コミュニケーションの目的を明確にする
・患者さんに合ったAACを選択・導入する
・AACの選択と留意点
●コミュニケーション支援に関連する公的支援制度
●経過に応じたコミュニケーション支援の実際

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第320回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

看護師の的確な観察は
安全性の第一歩であると言えよう

 異常な徴候の早期発見による早期の対応も、生命の安全には欠かせない。その意味では、看護師の的確な観察は安全性の第一歩であると言えよう。また、観察したことが何を意味するかの判断も大切である。(中略)

 情報の収集という言葉が先行して、自らの五感を用いた観察ではなく、医療器具や検査データ由来の数値からアセスメントする傾向である。いかに医療技術が高度化しようと、 人間の営みに深く関わる看護は、 看護師自身の観察技術そのものが、看護の受け手の方たちへの接点にもなることを忘れてはならない。

(出典:『第3版 生活行動援助の技術 ありふれた営みを援助する専門性』14~15ページ、看護の科学社)

そのほか「川嶋みどり 看護の羅針盤」の記事はこちら

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第319回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

大切なことは、ごく普通の
誰もが感じるような
人間的な感覚で見ていくということである

 療養環境をよくするための提言をしたい。1つはごく普通の人間的な感覚を土台にした科学的な分析である。何が問題かを主観的な印象や感性だけで言うのではなく、科学的に分析するということ。

 たとえば、患者の周辺の種々の環境の変化因子により患者の血圧や血流が変わるとか、貧血が起きたり、モニターの波形がおかしくなるといったようなことはないか。しかし、そうした分析以上に大切なことは、ごく普通の、誰もが感じるような人間的な感覚で見ていくということである。

(出典:『看護技術の現在 看護の時代2』181ページ、勁草書房)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第318回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

現状の臨床場面では
安全性にかかわる技術の優先から、
その本人の安楽性に関する領域の技術は
相当に省略されているようである

 現状の臨床場面では、安全性にかかわる技術の優先から、その本人の安楽性に関する領域の技術は相当に省略されているようである。1つには、ナーシング・オーダーによる行為のみ看護師の自由裁量にまかされているため、どうしても後回しになってしまうという業務構造の影響があろう。

 また看護師自身の中に看護独自の領域の仕事を軽く見てしまう傾向もないとは言えない。医療や看護の過程で患者の生命の安全や病状の悪化を防止するための配慮が重要であるという、きわめて当然なことが当然なこととなっていないところが問題なのである。

(出典:『看護技術の現在 看護の時代2』53ページ、勁草書房)

そのほか「川嶋みどり 看護の羅針盤」の記事はこちら

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生成AIとは?看護師向けに基本をわかりやすく解説

 生成AIとは何か、文章作成や画像生成をどのように行っているのかを、看護師向けにやさしく解説!書籍『ChatGPT使ってる?ナースが書いた 看護に役立つ生成AI使いこなし術』の試し読み記事をお届けします。

AIと生成AIの違い

 前項(書籍参照)では、私たちが気づかないうちに、日常的にたくさんのAI技術にふれていることを確認しました。スマートフォンの音声アシスタント、予測変換、ネットのおすすめ機能、迷惑メールフィルターなど―。これらは、私たちの言葉を「認識」したり、次に起こることを「予測」したり、情報を「分類」したりすることで、私たちの生活を便利にしてくれる、いわば“賢いお手伝いさん”のような存在でした。

 では、本書のテーマである「生成AI」は、これらのAIといったい何が違うのでしょうか?

 その鍵を握るのが、まさに「生成(せいせい)」という言葉の意味にあります。「生成する」という言葉を辞書で引くと、「(新しいものが)生じ出ること。また、生み出すこと」といった意味が出てきます。つまり、ChatGPTをはじめとする「生成AI」とは、おおまかにいえば、何か新しいものをゼロから生み出す(創り出す)ことができるAIということなのです。

1.AIは受け身的に働く

 「え? AIが何かを創り出す?」と、少し不思議に思われるかもしれません。
 先ほど挙げた身近なAIたちを思い出してみてください。彼らの仕事は、基本的には「すでに存在するもの」を扱うことが中心でした。例えば、迷惑メールフィルターは、送られてきたメールが「迷惑メール」か「そうでないか」を分類します。 音声アシスタントは、私たちの話した言葉が「どのような意味か」を認識し、既存の機能(天気予報を表示する、アラームをセットする)を実行します。 おすすめ機能は、過去のデータに基づいて、私たちが次に好みそうなものを予測し、推薦します。 予測変換は、次に入力されそうな単語を予測して提示します。

 彼らは、何かまったく新しい文章や画像、音楽などを自ら「創り出している」わけではありません。与えられた情報や状況を理解し、それに対して最も適切と思われる既存の答えや動作を返す、というのが主な役割だったのです。これを専門的には「識別系AI」や「予測系AI」などと呼んだりもしますが、難しい言葉はいったん置いておきましょう。大切なのは、彼らが主に「受け身」で、既存の枠組みのなかで働いていた、というイメージです。

2.生成AIは能動的に働く

 一方、生成AIはもっと「能動的」です。まるでアーティストや作家のように、指示(命令)に従って、これまで世のなかになかったかもしれない、まったく新しいコンテンツを創り出すことができるのです。

 例えば、あなたが「夕焼け空を飛ぶ猫の絵を描いて」と生成AIにお願いしたとします。 すると、 生成AIは、 学習した膨大な画像データ(空の画像、猫の画像、絵画のスタイルなど)を基にして、あなたの指示に沿った世界に1枚だけの「夕焼け空を飛ぶ猫の絵」を新しく描き出してくれます。それは、インターネットのどこかから既存の猫と夕焼けの写真をコピーして貼り合わせたものではありません。学習した無数の要素を組み合わせて、創造的に生み出された、オリジナルの(といえるかは議論がありますが)絵なのです。

 また、生成AIは文章を作るのも得意です。あなたが「患者さん向けの、高血圧の食事療法のポイントをまとめた、やさしい口調のブログ記事を書いて」と指示すれば、生成AIは学習した医学情報やブログ記事の書き方などを駆使して、あなたのリクエストに合った、まったく新しいブログ記事をゼロから書き上げてくれます。これも、どこかのウェブサイトから文章を丸ごとコピーしてくるわけではありません(もちろん、学習データの影響は受けます)。

 ほかにも、作曲をしたり、プログラムのコードを書いたり、企画のアイデアを出したりと、生成AIが生み出せるものは多岐にわたります。まさに、“デジタル世界のクリエイター”と呼べるような存在なのです。

3.「料理評論家・敏腕ウェイター」と「凄腕シェフ」で考えてみる

 ここで、少し料理に例えてみましょう。
 これまでのAIが、特定の料理(例えば、カレー)がおいしいかどうかを判定する「料理評論家」や、あなたの過去の注文履歴から「次はきっとラーメンですね?」と予測する「敏腕ウェイター」だとすると、生成AIはさまざまなレシピや食材の知識を徹底的に学んだ「凄腕シェフ」のようなものです。

 あなたが「冷蔵庫にある鶏肉と野菜を使って、何かピリ辛でご飯が進む、新しい料理を作って」とオーダー(指示)すると、そのシェフ(生成AI)は、学んだ知識と技術を総動員して、今までにないオリジナルの創作料理(新しいコンテンツ)を「生成」してくれる、そのようなイメージです。

生成AIのシェフのイメージ

【無料webセミナー配信中】Chat GPTとは?看護に役立つ生成AIの基本と活用術

生成AIはデータ学習から何かを生み出す

 もちろん、生成AIが魔法のように、何もないところから完全に独創的なものを生み出しているわけではありません。その力の源泉は、やはり「学習」にあります。人間がこれまでに創作した膨大な文章や絵、音楽、プログラムコードなど、ありとあらゆるデータを学習することで、その背後にあるパターンやルール、スタイルといったものを、人間には到底真似できないレベルで吸収しています。

 そして、私たちが「こんなものを作って」と指示(これを「プロンプト」と呼びます)を与えると、AIはその学習した膨大な知識のなかから、指示に関連するパターンや要素を巧みに組み合わせ、統計的に“それらしい”と判断される、新しいアウトプットを生成するのです。

 ですから、生成AIが生み出すものは、ときどきどこかで見たような要素の組み合わせに見えたり、私たちの期待とは少し違う、ちぐはぐなものができ上がったりすることもあります。完璧な創造主ではなく、あくまで学習データに基づいて“それっぽく”創り出している、というのが現時点での実態に近いでしょう(このあたりの限界や注意点については後述します)。

 それでも、この「ゼロから何かを生み出す」能力は、これまでのAIにはなかった、非常に画期的でパワフルなものです。だからこそ、今、世界中でこれほど大きな注目を集め、私たちの仕事や生活に大きな変化をもたらす可能性を秘めている、といわれているのです。

 つまり、これまでの身近なAIは、 主に「認識」「予測」「分類」といった能力で私たちをサポートしてくれました。 それに対して生成AIは、学習した膨大なデータをもとに、指示に応じて、文章、画像、音楽、コードといった、新しいコンテンツを「生成(創造)」する能力をもっています。

 この「生成する力」こそが、生成AIを特別な存在にしている核心部分です。では、いったいどうやって、AIはこんなにも複雑な「生成」能力を身につけることができたのでしょうか? その秘密は、やはり「学習」の方法にあります。
 次項では、生成AIが膨大なデータからどのように知識を吸収し、新しいものを生み出す力を獲得していくのか、その学習のしくみについて、もう少しだけ踏み込んでみていきましょう。

POINT

●生成AIは指示(プロンプト)に従って、既存ではない新たなコンテンツを創り出すことができる。
●現時点では、生成AIの創造はあくまで膨大な学習データに基づき、指示に近い形で創り出している状態である。

大量のデータで賢くなる?生成AIの学習のしくみ

 前項では、生成AIがまるでアーティストや作家のように、指示によって新たな文章や絵などを「 ゼロから生み出す」力をもっていることをみてきました。まるで魔法のようにも思えるこの能力ですが、もちろん、AIが本当に魔法を使っているわけではありません。その驚くべき力の源泉は「学習」にあります。

 では、AIはいったいどうやって、そのように複雑な「生み出す力」を学習しているのでしょうか?まるで人間の赤ちゃんが言葉を覚えたり、芸術家が表現方法を身につけたりするようなプロセスを、AIはどうやって実現しているのでしょう? その秘密の鍵は、私たちの想像をはるかに超える、とてつもなく膨大な量の「データ」にあります。

 生成AIを賢くするための「教科書」や「先生」となるのは、インターネット上に存在する、ありとあらゆるテキスト(ウェブサイトの記事、ニュース、ブログ、書籍、論文など)、数えきれないほどの画像や写真、膨大な量の音楽データ、そして世界中のプログラマーが書いてきたプログラムコードなど、まさに人類が生み出してきたデジタル情報の集大成ともいえるものです。その量は、私たちが一生かかっても読みきれない、見きれないほどの、天文学的な規模になります。

 『AI 2041 人工知能が変える20年後の未来』(カイフー・リー、チェン・チウファン著)には、「GPT-3(2020年)のデータセットを、もし生身の人間が読んだら、一生の50万倍の時間がかかるほどの量を学習している。そして、このデータ量は毎年10倍ずつ増えている」1)と書かれています。AIは、私たちが一生かかっても読み切れない量のデータを学習しているのです。

 生成AIは、この膨大なデータをいわば「お手本」として、ひたすら読み込み、解析していきます。しかし、ここで重要なのは、AIが人間のように文章の意味を深く「理解」したり、絵を見て感動したりしているわけではない、ということです。AIが行っているのは、もっと数学的、統計的な作業です。
 それは、データのなかに潜む、無数の「パターン」や「ルール」「関係性」を見つけ出し、それを記憶していくというプロセスなのです。

生成AIの学習のイメージ

文章作成を学習するプロセス

 例えば、文章作成を学習する場合を考えてみましょう。

1.次に来る単語予測を繰り返す

 最も基本的な学習方法の1つは、「次に来る単語を予測する」という、一見シンプルな作業の繰り返しです。 AIに、例えば「明日はきっとよい〇〇になる」という文章の一部を見せます。そして、「〇〇に入る確率が最も高い単語は何でしょう?」と問いかけるのです。

 AIは、これまでに学習した膨大な文章データのなかから、「明日はきっとよい」というフレーズの後に続く言葉として、最も頻繁に現れる単語を探します。その結果、「天気」という単語が非常に多く使われていることを見つけ出すでしょう。一方で、「冷蔵庫」や「電柱」といった単語が続くことは、まずあり得ないことも学習します。

 AIは、このような「次に来る単語の予測」クイズを、文字どおり何十億回、何百億回と、途方もない回数で繰り返します。「猫は〇〇の上で寝ている」→「(おそらく)マット」「看護師は患者さんの〇〇に寄り添う」→「(おそらく)気持ち」「〇〇を食べたら、おなかが痛くなった」→「(おそらく)古いもの」というように、この地道な予測トレーニングを延々と続けるうちに、AIは単に「次に来る単語」を当てるだけでなく、もっと複雑なことを学習していきます。

2.文法や文章の構造を膨大なパターンでとらえる

 例えば、「てにをは」のような日本語の文法ルールや、「主語の後には述語が来やすい」といった文章の構造、さらには、「“うれしい”という言葉の後には、ポジティブな内容が続くことが多い」「“しかし”の後には、前の文と逆の内容が来やすい」といった、言葉と言葉のつながりや文脈(コンテクスト)まで、統計的なパターンとしてとらえていくのです。

 これは、まるで私たちが子どものころ、まわりの大人の会話をたくさん聞いたり、絵本を読んだりするうちに、文法を誰かに教わらなくても、自然と正しい日本語を話せるようになるプロセスに似ているかもしれません。たくさんの「お手本」にふれることで、その言語がもつ暗黙のルールやニュアンスを、体で覚えていくような感覚です。AIは、それを人間とは比べものにならないほどのデータ量とスピードで実行しているのです。

画像生成を学習するプロセス

 画像生成AIの場合も、基本的な考え方は似ています。
 AIは、例えば「猫」というラベルが付いた何百万枚もの猫の画像と、「犬」というラベルが付いた犬の画像をひたすら見続けます。その過程で、「猫には、とがった耳とひげがあって、丸い目が多いな」「犬は、猫とは鼻の形が違うな、尻尾を振ることが多いな」といった、「猫らしさ」「犬らしさ」を構成する視覚的な特徴やパターンを、ピクセル(画像を構成する小さな点)のレベルで学習していきます。
 
 さらに、「青い空」「緑の草原」「木造の家」といった、さまざまな物や背景の画像も大量に学習し、それらがどのように組み合わさって1枚の「絵」や「写真」になっているのか、その構成パターンも吸収していきます。

学習パターンを組み合わせるプロセス

 このようにして、膨大なデータのなかから、無数のパターンや関係性を抽出し、それを内部に巨大な「知識マップ」のような形で蓄積していく―。これが、 生成AIの基本的な学習のしくみです(実際には、もっと複雑な数学やアルゴリズムが使われていますが、ここでは「超入門編」として、このイメージをもってもらえれば十分です)。

 そして、この知識マップが完成すると、AIは新しいものを「生成」する準備が整います。私たちが「こういう文章を書いて」「こんな絵を描いて」と指示(プロンプト)を与えると、AIはその指示を解釈し、蓄積された知識マップのなかから関連するパターンを検索し、それらを最も「それらしい」確率で
組み合わせて、新しい文章や画像を生成するのです

 ですから、生成AIの答えはいつも同じとは限りません。同じ指示を与えても、確率的な組み合わせ方によって、少しずつ異なるアウトプットが出てくることがあります。また、学習データに偏りがあれば、生成されるものにも偏りが生じることがありますし、学習データにない、まったく新しい概念を生み出すのは苦手です。あくまで、学習したパターンの範囲内で、それらを巧みに再構成している、という側面が強いのです。

 それでも、この「大量データからのパターン学習」によって、AIが人間顔負けの(時には人間を超える)文章や絵、音楽などを生成できるようになったことは、驚くべき進歩です。

 さて、ここまでで「生成AIとは何か」「どのように学習するのか」という基本的な部分をおさえました。生成AIの教科書となるのは、インターネットなどに存在する膨大なデータです。では、この膨大なデータを学習した結果、具体的にどのような種類の生成AIが登場し、それぞれどのようなことがで
きるのでしょうか?
 次項(書籍参照)では、代表的な生成AIの種類と、その特徴についてみていきましょう。

POINT

●生成AIは、膨大なデータのなかから、無数のパターンやルール、関係性を抽出し、それを内部に巨大な知識マップのように蓄積して学習する。
●指示(プロンプト)を与えると、指示を解釈して蓄積された知識マップのなかから関連するパターンを検索し、それらを最も“それらしい”確率で組み合わせて、新しい文章や画像を生成する。

1)カイフー・リー,チェン・チウファン:AI 2041 人工知能が変える20年後の未来.中原尚哉訳,文藝春秋,東京,2022:158.

\続きは書籍で/

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ChatGPT使ってる? ナースが書いた
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【連載まとめ】観察とケアがつながる画像

 一般病棟の看護師に向けて、X線画像やエコー画像の原理と基本的な見方を解説する、全3回の連載です。

【第1回】X線画像の基礎知識:原理・特徴・注意点をわかりやすく解説

〈目次〉
●X線画像を閲覧する前の一般的注意事項
●X線画像の原理・特徴
・α線、β線とX線の透過性の比較
・X線画像の原理
・腹部単純X線画像の例

詳細はこちら

【第2回】フィジカルアセスメントとX線画像:バイタルサイン・呼吸音が示す肺の変化

〈目次〉
●重要な「X線画像撮影前情報」
●バイタルサインと胸部X線画像の関連
●バイタルサインと肺炎の重症度
●呼吸音とX線画像の関係

詳細はこちら

【第3回】超音波の原理とは?エコー画像を理解するための基礎知識

〈目次〉
●超音波の基礎知識
・すべては“波”からはじまる
・音の振幅と周期(周波数)の関係
・波の速度を求める数式
・波(光、音、振動)の時相
・周波数による音波の分類と性能
・プローブの種類

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そのほかの連載はこちら

糖尿病患者さんへのケアにつながるTips

 糖尿病専門医であり1型糖尿病の当事者でもある小野えあ先生の書籍『えあちゃん的「とうにょうびょう」論』の試し読み記事をお届け。糖尿病患者さんの足を守るためのフットケアのコツや、飲料のカロリーや糖質の注意点を紹介しています。

足壊疽を「起こさない」ために、重要なのがフットケア

 糖尿病は血管が傷む病気で、特に末端(特に足)の血流が低下します。
 また、神経障害のせいで、末端(やっぱり、特に足)の感覚が低下します。感覚の低下に気づくのは難しく、知らない間に感じなくなっていて、傷や化膿を放置し、気づいたときには「もう切断するしかない…」ということが、たまにあります。

以前、明らかにじゅくじゅくで痛々しいのに、デブリ中でも「(神経障害があるから)全然痛くない」と笑っている患者さんをみたことがあります。「同僚から “ 足があまりにもくさい ” と言われた」と受診した患者さんの足が、壊疽でデブリしなきゃいけない状態だったこともありますよ

そうならないようにフットケアをしっかりやる必要があるんですね

早期に危険に気づくには、観察・アセスメントがやっぱり大事です

 まずは靴下を脱いでもらい、指の間・足の裏の状態を見てください。感染の所見がなくても乾燥ひび割れたこなどあれば要チェックです。
 それから、足背動脈の触知を確認します。うまく触れなければハイリスクです。そのとき一緒に「指先を触った感覚がわかるか?」を患者さんに聞いてみましょう。
 併せて、アキレス腱反射や振動覚を調べてもよいです(医師がやる施設もあります)。

最近では、手軽に神経障害がチェックできる機械も発売されています

糖尿病性足病変に「感染症」を併発することで足壊疽に至ります

 血流障害や神経障害をベースに下肢に傷ができ、バリア=皮膚が破綻するとさまざまな菌に感染します。最初は小さな蜂窩織炎ですが、大きくなったり、深部(皮膚深層、骨など)へ広がったりすると、外科的治療(デブリードマン)が必要になります。重症例では、敗血症壊死性筋膜炎など、命にかかわる事態に陥ることもあります。

・靴ずれ
・乾燥によるひび割れ
・たまたま踏んでしまった(けど気づかなかった)画鋲
・無自覚の低温熱傷(床暖房やこたつ、電気毛布は要注意!)

など、多くの場合、最初の破綻は小さなもので、早めに対処すれば重症化を避けられます。

患者さんの足を守るコツは「白靴下」と「保湿剤」

 足病変に患者さん自身が早く気づく、簡単なコツがあります。「白い靴下を履く」です。
 脱いだ靴下に赤色(血液)や黄色(化膿)のシミができていたら、患者さんも家族も気になるでしょうし、白靴下ならそれが目立ちます。気になった段階で、対処(傷の手当てや受診)をすれば、壊疽にまで至ることはそうないはずです。それに、靴下を履くこと自体が、足を守ることにつながります。

 下肢の保湿も、かなり重要です。美容目的の処方で何かと叩かれがちなヒルドイドですが、わたしは、患者さんの足を守るために、けっこうよく出しています。
 足に合った靴を履くこと(変形がある患者さんならオーダーメイドを勧めても)や、足を清潔に保つ=ちゃんとお風呂に入ることも重要です。適応があれば、血行再建術を行うこともあります。

見落としがちだから気をつけて!飲料のカロリーや糖質

 HbA1cが上がったとき、患者さんに思い当たるフシを聞いたとき、食事やおやつについてはよく教えてくれます。でも、飲料については意識していない(自覚がない)ことが非常に多いです。
 原因のわからない血糖上昇時(特に夏場)には、以下、1つずつ挙げて検討してみてください。

①栄養ドリンク
②味つき天然水←けっこう多い
③スポーツドリンク、経口補水液←食塩摂取量の増加にも
④牛乳←適量ならよいが、飲みすぎはNG
⑤飲むヨーグルト、乳酸菌飲料
⑥果汁入り野菜ジュース、飲む酢
⑦蒸留酒を含めたアルコール飲料
←カロリーがある&おつまみにも注意
⑧ノンアルコール飲料←カロリーがあるものは、ふつうにジュース
⑨ブラック以外のコーヒー←微糖など

 牛乳や、低糖タイプの飲むヨーグルトは、適量なら大丈夫。それ以外の「清涼飲料水の常飲」は基本的によくないので、習慣化しているものは、やめたほうがよいです。
 ちなみに①③⑤⑥は「健康のために」飲んでいる患者さんも多いです(多くは逆効果なのに…)。飲んでいる理由も合わせて聞けるとよいですね。

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とうにょうびょう論表紙

えあちゃん的「とうにょうびょう」論
小野えあ 著
A5・144ページ
定価:2,200円(税込)
照林社

当サイト内の文章・画像等の内容の無断転載および複製等の行為を禁じます。

糖尿病患者さんへの支援:情報提供と応援

 糖尿病内科医であり1型糖尿病の当事者でもある小野えあ先生の書籍『えあちゃん的「とうにょうびょう」論』の試し読み記事をお届け。糖尿病患者さんへの情報提供や応援の重要性、初回入院の際にすべきことをわかりやすく紹介します。

病気だけど、 困った症状はない。ということは、 つまり…

 糖尿病は、確かに診断基準があり、治療が必要な病気です。でも、特に2型糖尿病においては、自覚症状がまったくないことが少なくありません。それを「病気」と呼ぶこと、また、それをもつ人を「患者」と呼ぶことには違和感があるな、と個人的には思います(本書では便宜的に使っていますが)。
 でも、医療機関は、基本的に病気を治療する場所です。自覚症状のない、完治させることもできない糖尿病患者さんに対して、医療者ができることはどれくらいあるでしょう?
 
 高血糖緊急症などで入院が必要な状態でもなければ、医療者が糖尿病患者さんに「直接、何かをすること」は、ほぼありません(というか、できません)。治療の主戦場は実生活のなかですから、実際に糖尿病と向き合い、治療行為を行うのは、糖尿病をもつ人自身や、その生活を支えてくれる人です。

①情報提供:時代とともに変わる「治療の常識」を届ける

 糖尿病治療は日進月歩で、日々新しい薬やデバイスが開発されています。わたしが糖尿病を発症してからの約30年で、糖尿病治療の常識はひっくりかえりました。でも、そういった情報を、非医療者である患者さんや家族が、自力で集めるのは簡単ではありません。
 だからこそ医療者は、随時、必要な知識や情報を正しくアップデートし、有用な情報を患者さんに届ける必要があります。

②応援:治療に対する「やる気」を引き出す味方となる

 治療の担い手(患者さん)のやる気を引き出し、継続してもらうためには、応援してくれる味方が必要です。医療者には、専門知識をもつ味方として患者さんに寄り添ってほしい、そう思います。

2つだけなんですか? 他にできること、ありませんか?

医師は薬剤の処方ができます(実際に購入して内服 or 注射するのは患者さん自身)。あとはフットケア訪問看護。これは数少ない、医療者が糖尿病に直接関与できることです

糖尿病治療の主体と周囲の協力の図

糖尿病治療において「初回入院」は、 とっても大事

 入院すれば、時間がたっぷりとれます。時間があれば、患者さんのことをよく知ったり(問診や検査など)、患者さんに情報を提供したり、最適な治療を検討したりできます。そして、多くの患者さんは入院している間「糖尿病に向き合うこと」を最優先してくれます

初回入院? 教育入院のことですか?

そうなんですが…教育入院という呼び方は不評です。それに「教育」するのは医療者なので、患者さんからすれば違和感があると思います。とはいえ適切な言い換えかたもないので、本書では「初回入院」と呼びます

ワンポイント

わたしが「初回入院が大事」と思う理由
 入院すれば、適切な食事を実際に提供されたり、頻回に血糖値を測ることができたり、いろんな薬を試したり…自宅や外来ではできないことを体験できます。何事も最初が肝心で、初回入院の経験が、その後の一生を左右するといっても過言ではありません。
 ネックは、時間とお金がかかること。なので、すべての患者さんに勧めるのは難しいですが、理想的には重症度にかかわらず、全員、初回指摘時に入院をしてもらいたいくらいです。

①初回入院でやることは3つ

患者さんについて調べる・知る
・問診(生活歴、家族歴、体重歴、嗜好、既往歴、家庭や仕事について、今後の希望をはじめ、入院の感想や金銭的な不安など、ちょっとしたことでも会話内容を記録してほしいです)
・診察と検査(インスリン分泌能や抵抗性:体質や体格、合併症や併存疾患など)

情報提供する
・糖尿病に関連した「必要な知識」全般(一般的なもの+個々に合わせた栄養指導や運動指導)

退院後に向けて準備する

・治療方針の決定・処方、必要に応じた手技の練習
・周囲への協力とりつけ(協力者の有無や関係性、受け入れられる介入について検討を重ねます)
・無理のない目標設定(目標を実現するために何ができそうか、患者さんと話してみてほしいです。看護師からみて不安な点はぜひ共有を)

③最も大切なのは「退院後に向けた準備」

 正直、入院中は、血糖管理がうまくいって当たり前です。食事・生活パターン・内服など、生活のすべてを病院が管理しているわけですから。しかし、自宅に帰ったら、ほぼすべての患者さんが、多かれ少なかれうまくいかなくなります。

 退院後、生活のなかで、さらに治療をその患者さんに合ったものにカスタマイズしていくために、入院で得た基礎知識や自身に関する情報・目標・方針・環境調整が強固な土台として重要なのです。
 そして、生活のなかで目標達成を維持していくためには「継続的な情報提供+応援」が非常に重要です。できることは限られているとはいえ、医療者の果たすべき役割は重要です。

適切な「応援」の方法は、相手や状況によって変わります!慰め、鼓舞、傾聴…ときには叱責だったりすることも

ワンポイント

そのやさしさが、認知機能低下を招く…かもしれない
 入院中のインスリン注射や血糖測定は、看護師にやってもらうのが安心・安全です。単位数や手技のミス、患者さんへのリスクもないので、正直、医療者にとっては楽なんです。
 でも「ほんとにこの人できてるの?」と感じるくらい、どう見てもあやうい患者さんほど、これらの手技を取り上げてはいけません。若いころからインスリン自己注射をやっていて、認知機能が怪しくてもルーチンでできる患者さんのなかにはインスリン手技をすることで認知機能を保っている人も少なくありません。

 認知機能が危うく「インシデントにつながりかねないから」と、入院中は看護師がインスリン注射を行うようにしたら、一気に認知機能が落ち、自宅退院できなくなった患者さんもいます。入院という大きな要素があり、一概にインスリン手技をやらなかったせいとはいえないものの、わたしには無関係とは思えませんでした。どんなに怪しくても、これまで自己注射してきたならば、できる限り本人にやってもらうべきです。

 ちなみに、インスリンを打ち始めてから50年経った患者さんを表彰してくれる企画があります。日本イーライリリー社が主催する「インスリン50年賞」です。インターネットサイトに、授賞式の様子や受賞者のコメントが掲載されています。長く治療を受けながら元気に暮らしている患者さんたちの姿に、わたしも勇気づけられています。受賞者は毎年増えていますし、糖尿病の予後がどんどんよくなっているのがわかります。

 なお、インスリン発売は1921年、わが国における在宅自己注射の保険適用は1981年です。現在50年賞を受賞している人たちは、保険適用前から注射をしている(そして当時、血糖測定は保険適用になっていなかった)わけです。そういった患者さんたちから、昔々の話を聞くのも、とてもおもしろいですよ。

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えあちゃん的「とうにょうびょう」論
小野えあ 著
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糖尿病ってどんな病気?

 糖尿病内科医であり1型糖尿病の当事者でもある小野えあ先生の書籍『えあちゃん的「とうにょうびょう」論』の試し読み記事をお届け。糖尿病とはどんな病気か、病型や慢性合併症の基本をやさしく解説しています。

インスリンがないと、ヒトは死にます

 糖尿病は、インスリンが足りないせいで、慢性的に血糖値が高くなってしまう病気です。
 インスリンは膵臓(β細胞)から分泌されるホルモンで、 細胞に栄養を取り込み、血糖値を下げる効果があります。そのため、インスリンが足りないと「栄養が細胞に入れず血中にあふれてしまう=高血糖」になります。
 「インスリンが足りない」には

・出る量が足りない(インスリン分泌不全)
・必要量が多すぎる(インスリン抵抗性)

の2種類があります。このどちらかの機序により、インスリン分泌量が必要量を下回ったとき、糖尿病を発症します。

インスリンの必要量と分泌量

糖尿病には、 いろいろな型(病型)があります

①「インスリン分泌不全」がベースとなるもの

 1型糖尿病は、自己免疫により膵臓が攻撃され、インスリン分泌が低下・枯渇する糖尿病*1です。1型糖尿病のほか、膵切除後や膵炎、薬の副作用などでβ細胞がなくなってしまった患者さんや、遺伝子の異常などで「インスリンが出ない」タイプは、シンプルにインスリン分泌不全です。
 これらの病気を抱えている場合は、どれだけ血糖管理がうまくいっていたとしてもインスリン注射をやめることができません。

*1 ゆっくり進行する「緩徐進行1型糖尿病(slowly progressive insulin-dependent diabetes mellitus:SPIDDM)」というタイプは、ときに2型糖尿病と誤診されます。

インスリン注射をしている人に、不用意に「やめられるといいね」とか言わないでくださいね

②「インスリン抵抗性」がベースとなるもの 

 妊娠すると、血糖値が上がりやすくなります。妊娠糖尿病は、妊娠に伴いインスリン必要量が増えることで発症する「インスリン抵抗性」をベースにした糖尿病です。
 妊娠のほか、肥満や薬剤、遺伝子異常など、インスリンが効きにくくなる要因は多数あります。また、過食するとインスリンの必要量が増えます。
 上記のいずれの場合でも、インスリン分泌量が十分なら糖尿病は発症しません。インスリン抵抗性や必要量増加がベースにあるとしても、最終的にはインスリン分泌不全が糖尿病の発症原因になります。

③上記①②の「どっちもあり」が2型糖尿病

 では、最も多い2型糖尿病の主な病態はどちらでしょうか…? じつは、人によります。大半の患者さんには両方の要素がありますが、なかには、ほぼインスリン分泌不全だけの人も、ほぼインスリン抵抗性だけの人もいます。
 2型糖尿病と聞くと「インスリン抵抗性が上がる肥満」をイメージしてしまいがちです。しかし、2型糖尿病患者の平均BMIは25未満=非肥満1)で、BMIが18未満=やせの人も珍しくありません。
 2型糖尿病の「なりやすさ」には、遺伝因子や加齢、出生時低体重・高体重など、自分ではどうしようもない要素がかなり影響しています。

「人による」って、ずいぶんあいまいですね…

そもそも2型糖尿病は、インスリン分泌が残っている高血糖のうち、原因(自己免疫、特定の遺伝子異常や病気、薬など)が特定できないものを全部ひっくるめたゴミ箱診断だから、ひとくくりにできなくて当たり前なんです

ワンポイント

血糖値が上がる治療って?
 ステロイド、栄養剤(経口・経管)、点滴によって糖尿病が急激に悪化したり、急に糖尿病になってしまったりすることは、よくあります。また、抗がん薬のなかには、急に危険な高血糖をきたしうるものがあります。
 もし、これらの治療を受けている患者さんが、喉の渇き、ひどいだるさ、尿が近い・泡立つなどと訴えたり、尿バッグがパンパンだったり、受け答えが悪くなっていたりしたら、すぐに血糖値を測りましょう。それにより救われる命があります。
 最初は大丈夫でも徐々に血糖値が上がっていくパターンもあるので、該当する治療を受けている患者さんには全例、定期的な血糖チェックが必要です。

「糖尿病=血糖値が高い」だけなら、特に困ることはありません

 高血糖状態が慢性的に持続していることが証明されれば糖尿病と診断されます。診断基準2)は、

・朝食前血糖126mg/dL以上または随時血糖200mg/dL(糖尿病型)が2日以上、別の日に確認される
・上記の血糖値かつHbA1c 6.5%以上(糖尿病型)であれば 1 回の検査で診断可能

 これに加え、高血糖による典型的症状や糖尿病網膜症所見により診断されることもあります。
 ただし、上記の「糖尿病型*2」を満たしただけで困る人はまずいません。では、なぜ病気と呼ぶのでしょうか?

*2 ちなみに、空腹時血糖110mg/dL以上、随時血糖140mg/dL以上は「境界型」です。HbA1c 6.0%以上がこれに相当します。

①生命の危機につながる恐れがある

 血糖値が上がりすぎれば、「口渇」「多飲多尿」「体重減少」「ひどいだるさ」「意識障害」などの果てに、「死」が待っています。

特徴的な自覚症状と高血糖があれば、HbA1cに関係なく*3糖尿病と即日診断が可能です

*3 HbA1cは上がるのに時間がかかるため、血糖値だけが高いことも、たまにあります。

②周術期合併症や感染のリスクが高まる

 血糖値が高いと、傷が治りにくかったり、感染症にかかったり、こじらせたりしやすくなります。周術期管理や他疾患をきっかけに糖尿病の治療が始まる患者さんも少なくありません。
 高血糖状態での緊急手術では、明らかに合併症リスクが上がります。手術前血糖は食前140mg/dL未満、食後2時間血糖180mg/dL未満が理想です。周術期には糖尿病内服薬をインスリンに切り替える必要があるので、血糖管理がうまくいっていない人・たくさんの糖尿病内服薬が必要な人は、術前に血糖管
理のための入院が必要になります。
 また、COVID-19においては、HbA1cが8.1%を超えると明らかに死亡率が上昇すると報告されていました3)

他にも、糖尿病は、歯周病や脂肪肝、勃起障害、認知症、悪性腫瘍などと関連しています

やっかいなのは、 慢性合併症:「しめじ」と「えのき」

 糖尿病があると、

・細小血管障害「:神経障害」「:眼の病気」「:腎障害」
・大血管障害「:(足)壊疽」「脳卒中」「:虚血性心疾患」

のリスクが、ものによっては境界型の段階から上がります。

細小血管障害は一般的にし→め→じの順で出ます。とてもよい語呂合わせ

①慢性合併症の「発症や進行を抑える」ことはできる

 困ったことに、これら慢性合併症の症状は自覚症状が出た後に対応しても、きれいさっぱり消すことはできません。しかし、適切な血糖管理と観察をすることで、発症・進行を抑えることはできるのです。
 たとえば、糖尿病網膜症。以前は日本における失明原因の圧倒的第1位でしたが、今は第3位です(ちなみに、現在の第1位は緑内障)。これは、

・患者さんたちが、しっかり糖尿病治療に取り組んだこと
・患者さんたちが、しっかり眼科に通っていること
・医学の進歩

のおかげです。
 透析を要する糖尿病患者さんの割合・数も、ここ数年は減少傾向にあります。

②慢性合併症で「困る前」に対応することが大事

 健診を受けない(ないし通院を中断している)間に、糖尿病の合併症が進行して「失明」してしまった患者さんや、「緊急透析導入が必要な腎不全」「足壊疽」などを主訴に糖尿病を初めて指摘される患者さんは、一定数います。
 「血糖値が高いだけ」では何も困らないのに、糖尿病とかかわりがある困りごとは、枚挙にいとまがありません。そのため、

「困る前に病気と診断し、治療に取り組むことで、死ぬまで困らないでいよう!」

というのが、糖尿病治療の基本コンセプトになります。

「目が見えにくい気がする。糖尿病のせいですか?」と不安がる患者さん、外来でときどきみかけます

糖尿病細小血管障害は年単位の進行なので、毎年健診を受けていて、はじめて指摘された患者さんの場合、基本的に糖尿病のせいとは考えません。年齢によっては、白内障があることも多いですし…
ただし、病歴が長い(網膜症の進んだ)患者さんでは、血糖値の急激な低下が眼底出血の原因になることがあるので、訴えがあれば報告してください

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【連載まとめ】やさしくわかる透析看護

 透析患者にかかわる看護師に必要な専門知識・技術をやさしく解説する、全4回の連載です。腎代替療法における意思決定支援や、腹膜透析(PD)・血液透析(HD)・在宅血液透析(HHD)の特徴を紹介します。

【第1回】腎代替療法における意思決定支援と腎移植の基礎知識

〈目次〉
●腎代替療法の情報提供と意思決定プロセス
・患者にとっての最善を共に考える
・腎代替療法の情報提供の流れ
●知っておきたい腎代替療法の選択肢①腎移植
・腎移植の種類
・腎移植の実施時期
・生体腎移植ドナーの留意点

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【第2回】腹膜透析(PD)の特徴や注意点、患者への説明ポイント

〈目次〉
●PDの特徴
●PDのメリット・デメリット
●PD導入に関する患者への情報提供
●PD開始後の留意点

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【第3回】血液透析(HD)の特徴や注意点は?透析日のスケジュール例も紹介

〈目次〉
●HDの特徴
●HDのメリットとデメリット
●HD導入に関する患者への情報提供
・HD実施の流れ
・透析がある日のスケジュール例

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【第4回】在宅血液透析(HHD)の特徴や注意点、実施基準・導入手順をわかりやすく解説

〈目次〉
●HDDの特徴
・腎代替療法の分類
●HHDのメリットとデメリット
●HHD導入に関する患者への情報提供
・HHD患者のある1日のスケジュール
・HHDの選定から導入までの流れ(例)

詳細はこちら

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【連載まとめ】看護師に必要な腎臓病と透析の知識

  ナースが臨床現場で活かせる腎臓病と透析の知識をまとめた、全4回の連載です。腎臓病の定義や症状、血液透析の基礎知識などをわかりやすく解説しています。

【第1回】腎臓病とは?どんな状態を指すのか、定義と分類を解説

〈目次〉
●「腎臓が悪いというのはどういう病態ですか?」
●BUN(尿素窒素)ではなくCr(クレアチニン)を指標にするのはなぜ?
●尿量測定の目的とは?
●病態分類の確認と臨床経過のイメージ

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【第2回】腎臓病による症状とは?看護に役立つ基礎知識

〈目次〉
●「腎臓が悪いと、患者さんに何が起こるのですか?」
●腎臓だけが悪いときに考える疾患
●腎臓も悪いときに考える疾患
●家族も腎臓が悪いときに考える疾患

詳細はこちら

【第3回】血液透析の現場で看護師が注意すべきポイント

〈目次〉
●血液透析を実施する際に必要なもの
●血液透析中に注意することは?
●透析前後で病棟ナースが気を付けることは?

詳細はこちら

【第4回】水・電解質の異常とは?腎臓病を理解するための基礎知識

〈目次〉
●腎臓の役割とは?
●電解質異常で大切なことは?
●水・電解質異常になりやすい患者は?
●水の異常とは?
●電解質の異常とは?

詳細はこちら

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第317回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

「看護の力」は注射や薬のような外部からの力ではなく
その人に本来備わっている治る力を
上手に引き出すことにあります

 「看護の力」は、注射や薬のような外部からの力ではなく、その人に本来備わっている治る力を上手に引き出すことにあります。そして、それらの方法は、看護師がリードせずとも自分自身でマスターして実行すればよいことも多くあります。とくに、昨今の生活習慣由来の多くの成人病は、ライフスタイルを変えることとセルフケアによって予防が可能です。そうは言っても、「わかっちゃいるけど止められない」といった人間の本性は無視できません。正しい方法を知ってもこれを実践することは大変難しいともいえます。専門的な看護の領域でも、健 康増進や疾病予防のための意識や行動を変容することは、最も難しいアプローチでもあるのです。

(出典:『看護の力』48~49ページ、岩波書店)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第316回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

「生きている証」としての
口で食べることの意味を問う必要がある

 病人や高齢者の有限の生への思いは、若くて健康な人々には想像もつかないだろうが、今日一日たとえ一口でも何かを食べることができたという思いは、恐らく「今日一日を生きた」思いに通じるのではあるまいか。

 たったひと匙のスープやおもゆの熱量は、測る必要もないほど微量であるが、そこに、現代科学の知識では割切れぬ何かがある。科学で割切れないということを、神秘として片づけるのではなしに、人間に関する研究の遅れと受けとめ、「生きている証」としての、口で食べることの意味を問う必要がある。

(出典:『看護技術の現在 看護の時代2』122ページ、勁草書房)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第315回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

何も訴えず
いや訴えることができず
横たわって、全面的に介助を依存しなければならない
老人の気持ちに近づく努力をしてみよう

 健康であれば、「たまには寝てみたい」と思うが、実際に風邪でもひいて臥床すると、それがどんなに苦痛であるかは、誰でも体験するだろう。腰や背中が痛み、寝ていること自体容易ではないということを。

 病棟からの「看護度の高い患者がたくさんいて大変!」という悲鳴にも似た声をよく聞く。だが、 当の寝たきり老人の苦痛に対しては、多くの看護師たちは鈍感である。何も訴えず、いや訴えることができず横たわって、全面的に介助を依存しなければならない老人の気持ちに近づく努力をしてみよう。ただ、うめいているだけかもしれないが、その底にある苦しみを理解しよう。そして、現状維持のケアから一歩進めてその老人の可能性にチャレンジしてみてはどうだろう。その辺に看護と介護の違いがあるのではないだろうか。

(出典:『CHECK it UP③日常ケアを見直そう あなたの職場の看護チェック』61ページ、医学書院)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第314回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

個々の職種の専門性の総和によって
目標が達成できるのが
チーム医療の特色である

 チームは組織です。その組織の力量いかんが患者の安全を左右し、健康回復や病状安定にも直接影響します。個々の場面におけるどの職種の働きが目標達成に有用であったかということではなく、個々の職種の専門性の総和によって目標が達成できるのがチーム医療の特色であると言えます。

 チームを構成する人々は年々交代していくために、「本当のチーム医療」は、いつになっても高い目標であり続けるかもしれないと思いながら、それへの近道は、やはり看護そのものの水準を高める以外にないと思っています。

(出典:『看護を語ることの意味“ナラティブ”に生きて』183ページ、看護の科学社)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第313回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

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死にゆく人々の看護を考えるにあたって
最も重要なことは
生命についての哲学を一人ひとりの看護師が
きちんともつことではないだろうか

 死にゆく人々の看護を考えるにあたって、最も重要なことは、生命についての哲学を一人ひとりの看護師がきちんともつことではないだろうか。老人患者が増加し、交通災害が増えて、植物状態やそれに近い患者も各施設内には必ず存在する状況のもとで、よほどしっかりとした生命観をもっていないとジレンマに悩むことも多い。

 私はかねてから、生命過程における死の必然性を認めた上で“積極的な生の肯定” ということを主張してきた。積極的な生の肯定とは、患者その人の年齢や背景にかかわらず、その人の死の瞬間までの日々を、人 生の貴重な1日として大切にするということである。

(出典:『CHECK it UP②日常ケアを見直そう あなたの職場の看護チェック』161ページ、医学書院)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第312回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

苦痛や疼痛をすっかり軽減したり
緩和できるということは
まずあり得ないということを
謙虚に認めることが援助の出発点である

 苦痛の多様性、個別性を考えると、その道の険しいことは十分予測されることである。だが、より確かな苦痛のケアの方法をあみ出せたら、医療技術の中身もずいぶん大きく変わるだろうと思われる。

 苦痛のケア上忘れてはならないことは、苦痛は、その苦痛を現在感じている人のものであり、その人が「苦しい」「辛い」「痛い」と言えば、そこには明らかに苦痛が存在するのだということである。客観的にその量や質を測定できないし、「本当に苦しいのか」「痛そうには見えない」などと疑いの目で見ることは、余計に苦痛や疼痛を増強する。そして、苦痛の援助を述べるのに大変矛盾しているようだが、苦痛や疼痛をすっかり軽減したり緩和できるということは、まずあり得ないということを謙虚に認めることが、援助の出発点であると思う。

(出典:『看護技術の現在 看護の時代 2』97~98ページ、勁草書房)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第311回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

看護師が訪問してケアをするのに
なぜ、医師の「指示書」が必要なのか

 訪問看護ステーションは、在宅でケアを必要とする高齢者に対して、看護技術を提供して費用を得るという、これまで認められなかった看護の自営の承認ともいうべき画期的な施策であり、看護界はこれを歓迎した。ところが、発足早々問題も山積する。例えば、医療面での医師との連携はいうまでもないことであるにしても、看護師が訪問してケアをするのになぜ、医師の「指示書」が必要なのか。専門職である看護師が、自由裁量で訪問することを誰が拒んでいるのか。指示書の必要がステーションの維持を図るための経済基盤を弱める一因ともなっている。

(出典:『看護管理覚え書』54ページ、医学書院)

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川嶋みどり 看護の羅針盤 第310回

 20世紀半ばから現在に至るまで、看護は多くの変化と困難を乗り越えてきました。その中で「書く」という営みを通じて、看護実践の価値を問い続けた川嶋みどり先生が、これまでの経験と想いを綴った言葉を厳選し、一冊の本にまとめたのが『川嶋みどり看護の羅針盤 366の言葉』 (ライフサポート社、2020年)。 

 この連載では、本書に収載された看護の現場や看護職の想いだけでなく、個人としての視点や感性も込められた366の言葉を、毎日1つずつご紹介します。

療養上の世話は
苦痛のケアではありません
気持ちのよいケアに尽きます

 療養上の世話というのは、患者に対して至極当然なことを至極普通にさりげなく行い、整えることです。そのことによって患者の安楽が図れ、免疫力を高めます。

 療養上の世話は苦痛のケアではありません。気持ちのよいケアに尽きます。そして、そのケアを、ケアの受け手の文化と一致して行う、つまりその人が過去に習慣として行っていたのと同じようなやり方で提供することで、自然のままに受け取ることができるサービスとなります。

(出典:『看護の危機と未来 今、考えなければならない大切なこと』143ページ、ライフサポート社)

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